121話 ふるえる山のようなトロール(前編)





 トロール四天王のアコンカグアとエルブルスが、遂に最前線まで到着した。

 ユーウェインはスギハラに尋ねる。


「スギハラ、どっちとやりたい?」

「別にどっちでもいいぜ」


「じゃあ、右のやつを頼む。俺は左と戦う」

「オーケー。じゃあ、行くか!」


「スギハラ、女神の武器の特殊能力は強力だが使った後の消耗が激しい。倒しきれなかったら、逆に自分がやられる事になる使い所に気をつけろ」


 ユーウェインはスギハラに女神武器の特殊能力使用時の忠告をして、自分が相手をする四天王の元に向かう。


 四天王の一体アコンカグアは、部下のトロールを倒しているアキのゴーレムに攻撃を仕掛ける。


 アコンカグアはアキのゴーレムよりも一回り大きく、アキはアコンカグアの攻撃に対して左腕の盾で防ぐように命令するが、その攻撃は予想より強力で盾を砕かれ腕まで壊されてしまう。


「このまま守っても負ける、攻めろ!」


 アキはもう勝ち目は無いと悟り、残る力の全てを込めた攻撃を仕掛けるように指示を出す。

 彼女の猫耳ゴーレムは最後の力を振り絞り、残った右腕で渾身の右ストレートをアコンカグアに放った。


 右ストレートを受けたアコンカグアは少しふらついたが、すぐさまアキのゴーレムに強力な反撃してくる。


 その強力な袈裟斬りの一撃を受けたゴーレムは撃破され、砕けてその場にいくつかの岩の塊となって崩れ去った。


 自分のゴーレムが倒されたのを見て、アキはこう独り言を呟く。


「第08号ゴーレムがロックゴーレムとトロールとの連戦で、ダメージが蓄積していたとは言えあっという間に一機倒された……。こいつは、エースだ!」


「まあ、四天王だからエースではあると思うッス」

「アキお姉さん、こんなに前まで出て来ていいんですか?」


 そう言いながら、リズとミリアが近づいてきた。


 アキはミリアの雰囲気が変わっていることに気づくと、このように尋ねてみる


「ミリアちゃん、何か雰囲気変わったね。どことなく自信に溢れているね」

「私だって成長するんです。そんな事よりトロールを倒しましょう」


 すると、ミリアは今までの彼女とは違い自信満々の表情でそう答えたので、アキは少し困惑するが魔法や魔物が存在する… なにより、親友の胸のサイズがAAになる世界なので、そんな事もあるかと納得した。


「アキ、アナタのゴーレムは四天王ではなくて、他のトロールと戦わせて。そのほうが、効率がいいわ。リズちゃんとミリアちゃんはクリスさんと協力してスギハラ殿を援護して。私はエドガーさんと隊長を援護するから」


 そこにエスリンがやってくると、そう言い終わった後にユーウェインの近くに走っていく。


「では、アキさん。お互いに頑張りましょうッス!」

「二人も無理しないようにね!」

「アキお姉さんも、無理しないでくださいね」


 3人はお互いの安全を祈って、それぞれ指示通りの場所に向かう。

 四天王との戦いは、ユーウェインとスギハラが囮となって対峙して気を引いて、少し距離が離れた所から遠距離や魔法で耐久値を削っていくのが基本戦術である。

 アコンカグアは盾を構えているユーウェインに武器を振り下ろすと、彼はその攻撃をバックステップで回避するが、その巨体から振り下ろされた強力な一撃は空を切って地面に当たると、武器が叩きつけられた地面は割れ衝撃波を起こす。


「くっ!」


 ユーウェインはその衝撃波を盾で耐えると、そのタイミングでアコンカグアの足下にエドガーの詠唱した魔法陣が現れメイルストロームが発動し、巨大な水柱が渦を巻きながらアコンカグアを巻き込みながら吹き上がる。


 水属性の最高位魔法メイルストロームとはいえ、アコンカグアの巨体を持ち上げることは出来なかったが、それなりにダメージを与えることはできた。


 アコンカグアは魔法を放ったエドガーに気づくと、腰に差した投げナイフを彼に投げつけようと腰に手を回した時に背後に気配を感じる。


 後ろを振り返ると、紫音が高速で背後に移動して隙きをつこうとしていた。


「うわっ、気付かれた!?」


 アコンカグアは武器を振りかぶりつつ後ろに振り帰り、振り向く遠心力を利用して強力な一撃を紫音目掛けて振り下ろす。


 紫音にはそのアコンカグアの一連の動作がスローに見えた。

 彼女の戦闘本能が無意識にこの状況がピンチと判断し、女神の秘眼を発動させた為その強化された動体視力が見せたものだ。


 お陰で紫音はその攻撃に冷静にどう対処するかを考えることが出来た。

 紫音はオーラを溜めた打刀・天道無私を脇構えで構え、厳しい山籠り(?)で会得した対振り下ろし攻撃迎撃技 “裏山昇龍波”を放つ体勢を取る。


「燃え上がれ私のオーラ! 裏山昇龍」


 そして、新技を放とうとした。


「やっぱり、怖い!!!」


 ―が、紫音はアコンカグアの強力な一撃に土壇場で怖気づいて、オーラステップでその強力な攻撃を紙一重のタイミングで回避したが、空振りしたアコンカグアの強力な一撃は地面を先程より激しく叩き、地面は少し抉れて強力な衝撃波を生み出した。


「はうぁ~」


 紫音はその衝撃波で吹っ飛んで、地面を暫く転がるが何とか体勢を立て直す。

 今のは紫音の戦闘本能がまたもや危険だと咄嗟に判断した逃げであって、今の一撃を迎撃していれば恐らく無傷では済まなかったであろう。


(流石に迂闊に接近しすぎたよ……。もう少し、慎重に距離を取って……)


 紫音がそう思いながら武器を構え直すと、ユーウェインから指示が飛ぶ。


「シオン君! 君は他のトロールを相手して数を減らしてくれ!」


 ユーウェインの元に走って近づくと、紫音は彼に確認を取る。


「一人で大丈夫なんですか?」

「暫くはこちらから仕掛けずに、遠距離攻撃で削るから一人でも大丈夫だ」


 その紫音の質問に、ユーウェインはそう答えた。


「わかりました」


 紫音は彼にそう返事すると、走って別のトロールとの戦闘に向かう。

 彼女が走っていると目の前にリディアのハイオーラアローを頭に受けて、ふらついているトロールを視認すると彼女は、そのトロールに向かってオーラステップで加速して近づく。


 そして、ふらついて隙のできているトロールの右足を斬りながら後ろに抜ける。

 紫音に右足を斬られて切断されたトロールは、右足で膝を付き体制を崩す。


 トロールは何が起こったのかと周囲を確認しようとした瞬間、背中に何か当たった感触を感じ背中を見るが時すでに遅く、背中を踏み台にして更に頭上に跳躍した紫音が落下しながらそのトロールの頭頂部にオーラを纏った刀を打ち込む。


「飛翔剣!!」


 頭頂部に打ち込んだ刀は、紫音の予想以上にトロールの頑丈な頭を切り裂いて首の付根まで真っ二つにした。


 彼女は改めて女神武器の切れ味の鋭さを思い知らされる。

 紫音が地面に着地すると、トロールは魔石に姿を変えた。


「この調子で、どんどん行こう!」


 手応えを感じた紫音は、次のトロールに向かって走り出す。


 その頃、ソフィーは四天王エルブルスの副官ユングフラウと交戦していた。

 ソフィーはスピードを活かしてミトゥデルードにオーラを溜めて斬りつけているが、副官ともなるとオーラブレードで攻撃しても、あまりダメージが入らない。


 それに対し、ソフィーの方は一度でもまともに攻撃を受ければ、大ダメージを受けてしまう。


「この不公平さ、ホント酷いわよね……」


 その緊張感と理不尽さに彼女は思わずそう呟いた。


(このままでは、私の方が体力とオーラが先に尽きるわね……)


 ソフィーは自慢のスピードでユングフラウと一度距離を取ると、高級オーラ回復薬を飲んでオーラの回復を行なう。


(オーラは薬で回復するとは言え、体力はどうしようもないわ……)


 ソフィーは誰か援護してくれないかと、周囲を見たが他の者も別のトロールで手一杯といった感じだった。


(一度引いてもいいけど、私が引けばこいつは四天王と合流するかも知れない。それだと、お姉さまが危険になるかも知れない……)


 ソフィーは紫音を見ると、彼女は向こうで別のトロールと戦っている。


(シオン・アマカワも無理そうね……。私ったら何を期待しているのよ……!)

「私だけでアイツを倒すのよ!」


 ソフィーがそう決意を口に出した時、頭の中に誰かが話しかけてきた。


(よく言ったわ、ツンデレちゃん!)


 その声を聞いた瞬間、ソフィーはこの声の持ち主を思い出す。


(その声は! アナタ、頭に鹿の角付けたおかしな格好していた自称”山の女神”でしょう!)


 ソフィーは頭の中で、頭に鹿の角をつけた山ガールコスのミトゥースに突っ込んだ。


(あと、誰がツンデレよ!!)


 そして、更に突っ込む。

 戦闘中でも彼女のツッコミはキレッキレであった。

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