97話 防具屋にて その2







 GX(Girls X)前回までのあらすじ


 月軌道での最後の戦い、カテゴリーH(ヒンヌー)のシオン・フラット、ソフィー・フラットのフラット姉妹が、衛星ランチャーを装備してリズ、ミリアの前に現れた。


「あの人達の心に……、激しい憎悪を感じます……」


 ミリアの感応能力で読み取った言葉を聞いたリズは、フラット姉妹に問いかける。


「何故アナタ達は、そこまで世界を変えようとするッスか!」


 リズの問いにシオンは答える。


「私達は胸が揺れないというだけで、似て非なるモノとされ世界から黙殺された!」


 そして、ソフィーも続けて答える。


「私達が受けた屈辱、そして、絶望……。それは、この世界を滅亡させてこそ癒やされるのよ!」


「そして、全てが破壊されてから、新たなる価値観が築かれるの! ヒンヌーが至高だという価値観が!」


「それが、私達が求める正しい世界よ!」


 二人の身勝手な理由を聞いたリズは怒りを顕にする。


「私はアナタ達を認めないッス! そんな勝手な理由で世界を滅ぼさせはしないッス!」


「世界が私達を黙殺するから、私達が世界を滅ぼすのよ!」


 そのリズの言葉に、シオンは怨嗟と怒りを込めてこう返した。



 ####



「奴らはここに来て、まだ巨乳にこだわった。だから……」


「どうして、シオンさんが死んだ魚みたいな目で、訳の分からないことを言っているっスか!? アキお姉さん、一体何を言ったッスか?」


 紫音が意味不明な言葉を喋っている姿を見て、リズが一緒に居たアキを問いただそうとすると紫音はさらに何か呟く。


「走るのに向いたフラットな胸だそうだから……、きっとこの鎧でも問題ないよ……」


 その紫音の聞き覚えのある言葉を聞いたソフィーが、リズに対して自分が思い出した過去のことを突きつける。


「この台詞、私がシオン・アマカワと戦っていた時に、アナタが私達に言った言葉じゃない!」


「今更ッスか!?」


 リズがまさしく今更と言う言葉が合う過去の発言を、紫音が言い出したことに驚く。


「きっと今まで黙っていたけど、心の中では傷ついていたのかも知れませんね……」


 エレナは紫音の心理をそう分析する。

 リズは今にして、何故紫音があの言葉でこうなってしまったのかは解らないが、頼りにしているお姉さんがこんな状態になっているので、取り敢えず謝っておくことにした。


「シオンお姉ちゃん……、ごめんなさい。リズ、もうあんな事言わないから許して欲しいの……」


 リズは少し上目遣いで瞳を潤ませて、いつもの最高にあざと可愛い表情と声・仕草で紫音に謝罪する。


 そのリズのあざと可愛さを見た紫音の瞳は、先程まで光が失われていたがすぐさま輝きが戻り彼女は正気を取り戻す。


「何か知らないけど、お姉さんは許すよ~!」

「離してくださいッス!」


 そして、リズにここぞとばかりに抱きつくと、何を許すのかは解らないが抱きつかれて嫌がる彼女を許す紫音。


「私は許さないけどね」


 ソフィーはその二人の姿を見ながらそう言った。


「なるほど、お金が足りなくて鎧が買えないと……」

「うん……」


「アキお姉さん、漫画で稼いでいるなら、シオンさんに少し貸してあげて欲しいッス」

「いいけど、さっきも言ったけどタダって訳にはいかないかな」


「何故そんな意地悪な事を言うッスか? お二人は幼馴染なんじゃなかったッスか?」

 ミリアもリズの意見に賛同して頷く。


 アキはリズとミリアにこう諭す。


「リズちゃん。お金の事は例え友達でも、キッチリとしなくてはいけないんだよ。でなければ、それによって友情が崩壊することもあるんだよ。紫音ちゃんも私に普通に借金して、負い目を感じるより、対価を支払う方が対等の立場でいられるでしょう?」


「そうかもしれないね……」


 紫音はアキの説明を聞いて納得する。


「で? シオン・アマカワは何をしたらいいの?」


 ソフィーは、アキに条件を尋ねることにした。


「紫音ちゃんにもさっき言ったのだけど、それを少し変更して”オ―タム801 新刊発売”ってステッカーを装備に貼ってもらおうかな」


「それぐらいなら良いじゃない」


(確かに、その内容なら恥ずかしくないかな……)


 紫音はそう判断すると、アキにその条件を了承する。


「じゃあ、決まりだね。ご主人、昨日頼んでおいた装備を出してください」


 アキは紫音の条件承諾を聞くと防具屋の主人にこう話しかけた。


「少しお待ちを……」


 アキにそう言われた店の主人が奥に入っていくと、銀色の軽装備一式を持ってくる。


「ご注文のミスリル製軽装備一式です。サイズは言われた通りのものです」

「さあ、着てみてサイズが合っているか試してみて」


「いや、いや。こんな高価なもの無理だよ」


「広告なんだから、銀色に輝いて目立つこの装備が良いの。それに自分の命を守るものなんだからケチっては駄目だよ」


 紫音はアキに促されるままに、ミスリル装備を装着した。


「サイズはどう?」

「うん、少し大きい所もあるけど、概ね大丈夫かな」


「大きい所は、調整します」


 店主は調整を始める。


「でも、どうして私の装備のサイズが解ったの?」

「それは……、紫音ちゃんが寝ている間に……」

「アキちゃん、何故頬を赤く染めているの?!」


 紫音は怖くてそれ以上聞けなくなった。


「ミスリルって、鉄製よりも軽いんだね」


 装備のサイズを合わせてもらった紫音は早速装備すると、ミスリル装備の軽さにこのような感想を口にする。


「まあ、だからこそ高価な訳だしね……」


 ソフィーの言葉を聞いた紫音は、気になって飾ってあるミスリル装備の値段を見ると、その高額な値段を見て装備を脱ぎ始めた。


「お返しします……」

「でも、代金はもうそちらの方から貰っているんで……」


 店の主人は、そう言ってアキの方を見る。


「紫音ちゃん。気にしなくても、出世払いでええんやで」


 アキはそう言って、もう返品できないようにミスリル製軽装鎧にステッカーを貼り始めた。


「ステッカーまで、もう用意していたの?」


 紫音のこの問にアキはステッカーを貼りながら、紫音にだけ聞こえるように話し出す。


「紫音ちゃんと再会した次の日にね、カリナさんが紫音ちゃんの装備がかなり消耗してきて危ないって言っていたの。ほら、カリナさんは元冒険者だから、そういうのが解るみたい」


「カリナさんがそんな事を…」


 紫音はカリナが、自分のことを気に掛けてくれていたことに感謝する。


 彼女の説明によるとカリナから”紫音のランクが低くて、装備にお金が掛けられないのでは?“と聞いたアキは、大事な幼馴染が大怪我をする前に装備を買ってあげようと思ったらしい。


 だが、紫音の性格上買ってあげると言っても遠慮するだろうと思い、サプライズで装備を買ってあげようと思い立つ。


 それで、紫音が801御殿で過ごしていた間に寝ている彼女のサイズを測って、それで昨日この防具屋で注文しておいたのであった。


「私からのプレゼントだから、お金のことは気にしなくて良いんだよ。ただ、私もお金に余裕があるわけじゃないから、紫音ちゃんの分しか買ってあげられなくて、依怙贔屓になっちゃうから条件を付けたの。それに、紫音ちゃんの性格上、無償の好意は遠慮すると思ったから、スタッカー案を用意しておいたの」


「じゃあ、この名前だけのステッカーも最初から新刊のタイトルを入れる気はなかったの?」


「紫音ちゃんの、メンタルであのタイトルは無理だって解っていたからね」

「アキちゃんの気持ちは嬉しいけど、こんな高価な装備は貰えないよ……」


「気にすることはないんだよ、紫音ちゃん。何故なら……、それは……まあ、後で分かるよ……」


(アレは絶対、話が進めば気付く人は気付くと思うから……)


 アキは、クオンシリーズの事を頭に思い浮かべながらそう言ってくる。


 紫音は親友の表情を見て、何か自分にやましい事を隠していると察した。

 紫音は、”クオンシリーズか……“と、頭に思い浮かんだ。


「ありがとう、大事に使わせてもらうね」

「うん」


 紫音はこうしてトロール戦前にミスリル装備を手に入れることができた。

 トロール襲来まであと一日半。



 次回 Girls X

「自分の愛馬は凶暴っすわー」


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