96話 防具屋にて
次の日―
筋肉痛が治った紫音は、朝食後さっそく冒険者組合に冒険者ポイントの確認に向かうことにした。
冒険者組合に着くと紫音達はシャーリーのいるカウンターに向かう。
「シオンちゃん、久しぶりだね。活躍は聞いているわ、四天王の一人を倒したんだってね。凄いわ、きっと冒険者ランクが上がっているわよ。さあ、他のみんなも確認するから冒険者プレートを私に渡してね」
みんなから冒険者プレートを受け取ると、彼女は奥にある装置で確認をするために席を離れる。
紫音達はその間、何か1日で済むような依頼がないか掲示板を見てみるが、残念ながら良いものは無かった。
そうしている間に、シャーリーが奥から帰ってきて結果を教えてくれる。
「おめでとう、シオンちゃん。ランクEになっていたわよ。しかも、もう少しでランクDにもなれるわよ。他のみんなは、今回は残念だったけどこの調子で頑張ればランクアップも夢ではないわ」
「シオンさん、おめでとうございます。」
「おめでとうッス」
「おめでとう、ございます……」
「おめでとう、紫音ちゃん」
「シオン・アマカワ、アナタまだランクFだったの? 私はアナタの実力なら、てっきりランクCぐらいだと思っていたけど……」
ソフィーのこのお祝いムードに、水を差す発言にリズがソフィーに噛み付く。
「こらー、ツンデレお姉さん! どうして、こんな時まで嫌味を言うッスか!」
「そうだよ、ソフィーちゃん。ツンデレキャラとはいえ、そんなKY発言は如何なものかと思うよ?」
「べっ、別にそんなつもりで、言ったわけじゃないわよ……。本当に実力の割に意外に低いランクだったから、つい言ってしまっただけよ……。気に障ったらなら謝るわ……、ごめんなさい、シオン・アマカワ……」
リズとアキの責めにソフィーは、本当に困った顔でそう言うと紫音に素直に謝った。
「別に気にしてないよ、ソフィーちゃん。私は冒険者育成学校までしか、卒業してないからランクFだったの」
紫音は謝るソフィーに対して、こう言って気にしていないことをアピールする。
シャーリーがこの場が嫌な空気になりかけていたので、話題を変えるために先程から気になっていたことを紫音に話す。
「ところでシオンちゃん、アナタの鎧かなり傷んでいるけど修理に出すか新しいのを買わないと危険だと思うわよ?」
紫音の鎧は、リザード戦でボロボロになっていた。
「はい、ではこれから整備屋さんに持って行ってみます」
「そのほうがいいわ」
紫音達はさっそく整備屋に向かう途中ソフィーがこう言ってくる。
「シオン・アマカワ。アナタ装備は大規模戦闘が、終わった後にすぐ出しておかないと駄目よ。私はリザード戦が終わったその日に出しておいたわよ」
「あの日は疲れていたから……」
(ソフィーちゃんって、意外としっかりしているんだな)
紫音は感心しながら彼女の話を聞いていた。
整備屋に着くと、紫音は防具を見てもらうと店の主人がこのような事を口にしてくる。
「この鎧はもう駄目だな。修理できんことはないが、新しいのを買うのとあまり変わらないぐらい費用がかかるがいいか?」
「あっ、では、新しいのを買うことにします」
主人の話を聞いた紫音は、そう答えて防具屋に向かうことにした。
「今まで結構ダメージを受けたからな~」
防具屋に向かう途中、紫音は今迄の戦闘を思い出しながらそう呟く。
「そもそも、アナタは相手の攻撃を受け流すために足を止めすぎだし、回避する時もギリギリで躱すから被弾率も上がるのよ。ワタシと同じくらい速いんだから、もっと余裕を持って躱せばいいじゃない」
すると、ソフィーがこのように紫音の戦いを分析して、問題点を指摘してくる。
「でも、それだと強敵相手だと隙を突くのに時間が掛かるから、受け流して崩したほうが速いと思うんだけど……」
「隙が出来るまで回避し続ければいいし、そのためのフェイントでしょ? そもそも、そんな無理しないと倒せない強敵とは、戦わなければいいじゃない」
「強敵と戦わないなんて、ツンデレお姉さんは臆病ッス」
リズのこの言葉に、ソフィーは自分の信念を話す。
「フン、好きに言いなさいよ。倒せない強敵と無理に戦って、その結果大怪我して戦力にならなくなったら、その方が無責任ってものじゃない。私は冒険者として、戦場で最後まで戦い続ける方を選ぶわ」
「後方で見守るしかない私としては、ソフィーちゃんの考え方のほうが良いと思います」
ソフィーの考えにエレナが賛同する。
「エレナさん……」
そう答えたエレナの憂いを帯びた表情を見て、自分が彼女に心配をかけているのだと感じた。
(アリシアにも心配を掛けているみたいだし、私の戦い方は間違っているのかな……。でも、今の私にはこの戦い方でしか、いい戦果を出せない……)
「まあ、考え方は色々だってことだよ」
紫音が色々考えていると、アキが強引に話を締める。
防具屋に着いて、今装備している鉄の軽装鎧の値段を見ると結構な値段だった。
「買えないこともないけど……、買えば明日からと言わず今日からパンの耳だけを食べなくてはならない……」
紫音が悩んでいるとアキが近づいてくる。
「お嬢さん、お困りですかな?」
「うん。お金が心許なくって……」
「私が出してあげようか?」
「え?! でも……」
「ええんやで……、その代わりに……」
アキはいやらしい動きを両手でしながらそう言ってきた。
「なっ、何をするつもりなの?! まっ、まさか……」
紫音は反射的に鎧越しに胸を両手で隠す。
「私は雄っぱいは大好物で、紫音ちゃんの胸はそれに近いけど、そんな似て非なるモノには興味はないよ……」
「アキちゃん、その言い方は流石に失礼だよ! さしもの私も男の人と一緒のモノ扱いをされたら泣いちゃうよ?! アレ、なんでだろう……、視界がぼやけてきたよ……」
紫音が涙目になりながら、”じゃあ、何故そんな手の動きをしたの!”と、突っ込もうとした時、アキから謝罪と提案が示される。
「紫音ちゃん、ごめん、ごめん。違うよ、鎧に私の新刊の名前の書いたシールを貼らせて欲しいの。ほら、よくあるユニフォームに一杯付いているスポンサーのロゴマークみたいなものだよ」
「因みにタイトル名は?」
タイトル次第では普通の漫画みたいで、恥ずかしくないかも知れない。
「俺と年下彼氏の学園☆性活」
「この鎧のままでいいかな……。私の胸… 空気抵抗が少ないからスピード出るし、何より揺れないから動きの邪魔にならなくって、回避力も高いはずだよ……、『当たらなければ、どうということはない』って、昔の偉い人も言っていたよ…」
そんなタイトルのロゴシールを貼った防具を装備したくない紫音は、死んだ魚のような目をしながら今着ている鎧と胸を見ながらそう言った。
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