71話 いざ、実戦!
トロール戦の次の日、魔王城に帰って来たリーベは、魔王に先程の報告をする。
「聞いてください魔王様! 女神達が予想以上に介入してきて、すごい武器を与えて酷い目に合わされたんです! もう、やっていられませんよ!」
リーベはすっかり心が折れてしまっていた。
「リーベ、しばらく戦闘任務から外れて、気分転換に久しぶりにBLでも描いたらどう? オリハルコンが揃うまで戦闘は厳しいでしょう?」
「そうします! 久しぶりに濃厚に絡み合ったモノを描きますよ! ヨッシャ―、燃えてきた!!」
リーベはやる気を出すと、少し悪い顔になって魔王にこう続ける。
「しかし、人間達もまさかBLの中に私達の作品があって、その売上が私達の活動資金の一部になっているとは、夢にも思っていないでしょうね」
「そうね。まあ、世の中とは人間とはそんなものなのよ。日々の暮らしで忙しくて裏で何が行われているかなんて、気にはしないものよ。例え世界が変わろうともね……」
「それでは、魔王様。私はさっそくBL生産に向かいます。あと、あちらの方も様子を見てきます」
「ええ、よろしく頼むわね」
リーベは魔王軍秘密BL生産施設に向かうため魔王城を後にした。
魔王はリーベの報告内容を改めて精査し、少し考えて対応策を考える。
「では、我らもこちらの権限内で、できる範囲で対抗するしか無いわね。相手が戦力を増強するなら、こちらもそれに合わせて戦力を上げるしかないわね。要塞侵攻戦の指揮官である四天王の数を二人にしましょう。とにかく、人間の戦力とは拮抗させなければならない」
人間達を生かさず殺さずの状態にして、惰性で戦わせ続け打倒魔王などとは思わせないようにしなければならない。
そうすれば、魔王システムの目的である人間同士で戦わせず、魔物と戦い続けるという目的が果たせる。
それなのに、最近女神はその均衡を明らかに崩そうとしているように思えた。
「何を考えているのかしら、あの女神……。まあ、確かに今はこちらのほうが戦力は多い。私が色々やりすぎて、戦力比は7対3で我々のほうが上ではあるし、戦力回復もこちらが上ではあるけど……」
魔王は最近の女神の介入に、一抹の不安を感じる。
”月影”がトロールの戦力を削る任務を断念して、街へ退却する帰り道の途中でスギハラとクリスはカシードに退却の指揮を任せ、ユーウェインに任務失敗の報告と今後の対策を打ち合わせるため、フラム要塞に立ち寄っていた。
「すまねえ、カムラード。思わぬ邪魔が入って任務失敗だ、20体くらいしか減らせなかった」
スギハラが、任務失敗を謝罪した後にクリスが詳しく弁明する。
「例の仮面の黒い女魔戦士の奇襲を受けまして、思わぬ被害を受けてこれ以上の任務続行は危険だと判断しました」
「例の”竜の牙”を壊滅させたというヤツか……。厄介な奴が敵の中に現れたものだ。まあ、リザードとトロールの間に、2~3日の猶予ができたのだから最悪の結果ではないさ」
「そう言ってもらえると助かる」
「それに今回は女神武器を2つ手に入れて、シオン君のPTの戦力が増強されたそうじゃないか。彼女たち次第では、連戦してもやりあえるさ。年端も行かない彼女達の力を頼りにしなければならないのは、俺達大人としては恥ずかしい限りだがな……」
ユーウェインは、自分の非力さに歯がゆさを覚え、腰に差したグラムリディルの柄を握り締めた。彼のグラムリディルも、特殊能力が発動しないからだ。
「俺達の女神武器が、もう少し頼れるやつだったらこんなことには!」
「言っても仕方ない。出来ることをするしかない、そうだろう?」
「そうだな……」
ユーウェインとスギハラが話し合っていると、そこに伝令が慌てて報告にやってくる。
「大変です! 今王都のフィオナ総主教猊下から、女神の神託が通信で送られてきました! その内容が……」
伝令は一遍の通信文を司令官に渡す。
「何!?」
ユーウェインはその通信文を見て、驚きのあまり声をあげてしまう。
「どうした!?」
「!?」
いつも冷静なユーウェインが、声を出したことにスギハラとクリスは、只事ではないことを予想する。
「神託によると今度の獣人侵攻軍は、司令官の四天王が二人で来るそうだ……」
「こいつは、まいったな……」
「さっそく、作戦会議をする。四騎将と各部隊の隊長を集めろ!」
「はっ!」
ユーウェインは伝令にすぐさま指示を出す。
「俺達も街に戻って、備えをしよう」
「はい!」
スギハラ達は、ユーウェインと別れて急ぎ街へ向かう。
紫音達は以前向かうはずだった、街の北東にできた小型獣人拠点を目指して歩いていた。
前回はリーベに邪魔されて辿り着けなかったが、今回は無事に近くまで来ることに成功する。
自分達の今の実力を測るため、そしてあわよくば宝をゲットするためである。
リズがイーグルアイで索敵をおこなう。
「拠点の外にレベル30のオーガが5体ッス」
「あの拠点の大きさなら、中にはオーガが3~5ってところね」
ソフィーが、今までの経験からそう判断する。
「では、作戦通りにソフィーちゃんはミリアちゃんとエレナさんを守って。私とリズちゃんで前衛を務めるわ」
「プロテクション!」
エレナがプロテクションの魔法を唱えて、身体強化をすると紫音が
「では、作戦開始!」
そう言って、敵に近づいていく。
リズがミーに命令を出す。
「ミー、GCファミリア展開ッス!」
「ホ――」
ミーはリズの命令を受けると宙に浮いて、GCファミリアに展開の命令を飛ばすと、リズが背中に背負った女神の中鞄の中に、収納していたGCファミリア6丁が次々と鞄の中から飛び出して、彼女の周りに展開される。
「勝手に鞄から出てくるのは、慣れないッス」
リズは少し動揺しながら、ミーにさらに命令を出す。
「ミー、索敵開始ッス!」
「ホ――」
ミーは鳴き声とともに電波を出し、レーダーの原理で外にいるオーガ5体までの各距離を測る。リズは飴玉を口に含むと、着弾予測眼を発動させ一番手前にいる相手の頭にターゲットマーカーを付けた。
そして、自らもグシスナルタを構えて、狙いを定める。
「ミー、GCファミリア発射ッス!」
「ホ――」
リズの命令とともにミーはオーガの頭に、GCファミリアの魔法の矢を一斉発射した。
不意を受けたオーガは回避もできずに、GCファミリアの六発全てとグシスナルタから放たれた矢が頭にヒットし魔石に姿を変える。
「レベル30のオーガを倒せたッス! これがアイギスシャルウルの力……」
リズは思わぬ戦果に喜びの声を出した。
彼女と紫音の存在に気付いた、残りのオーガ達が接近してきたので、紫音はオーラで強化した二刀流でそれを迎え撃つために、自らも突進して距離を詰める。
紫音は一番先頭にいたオーガと会敵すると、オーガの振り下ろされた剣を左に躱しながら脇差・鈴無私でオーガの剣を持った右手を斬りつけ、続けて打刀・天道無私で顔面を斬りながらその横をすり抜けた。
流石は女神武器、切れ味は抜群でオーガは右手と顔面に大ダメージを受ける。
さらに紫音は、背中に☓の字に斬撃を入れて強力なダメージを与え魔石に変化せた。
その紫音を襲うとしていた残り3体に、リズが二本ずつ魔法の矢を顔面に命中させ気勢を殺ぐ。
すると、紫音は一番近くにいたオーガに高速で突進して、リズの攻撃で隙のできた胴を天道無私で横一文字に斬り抜けると、振り向きざまに十文字に斬りつけ魔石に変えた。
「シオンさんもリズちゃんもすごい……」
ミリアが二人の戦いを見て感想を述べる。
「シオンさんはもう、すっかり二刀流が様になっていますね」
エレナがそう意見を述べると、ソフィーが二人とは違う意見を口にした。
「そうかしら? 私には結構アタフタやっているように見えるけど。ステップによるフェイントもしていないし、オーラステップによる緩急もつけていないし、二刀流を必死に使うことで手一杯って感じね。あの程度の敵だから、それで通じているけどあんな単調な攻め方では、さらに高レベルでは厳しいと思うわよ。アレなら一刀のほうが強いんじゃないかしら?」
ソフィーは紫音の戦いを辛評する。
「ソフィーちゃんって、なんだかんだ言ってシオンさんのことよく見ているんですね」
「違うわよ! 戦い方を分析しているのは、私がわざわざ練習相手になってあげているんだから、もっと出来るようになってもらわないと、私がお姉様に叱られるからよ!」
エレナのその言葉に、ソフィーはツンデレ口調でそう答えた。
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