70話 格闘家の少女、頑張る(前編)
ハイパーオーラパンチで、ロックゴーレムを何とか破壊したアフラであったが、オーラを使い切ってしまい力尽きて地面で気を失っていた。
その彼女に、リーベの命令を受けたアイアンゴーレムが近づいてくる。
そして、ついにアフラの近くまで来たアイアンゴーレムが、拳を振り上げ無慈悲な一撃を彼女に振り下ろす。
「おきなさい、アフラ」
「あと5分……、むにゃ、あと10分だけ……」
「アイアンゴーレムを倒さなくていいのかしら?」
「そうだった!!」
アフラはその言葉を聞いて目覚めるとバッと身起こす。
すると、眼の前にレディーススーツに身を包んだ顔半分を覆うぐらい大きなサングラスを掛けた若い女性が立っていた。
「あれ、ここは? お姉さんは誰?」
アフラが周りを見渡すと、辺りは二人以外全てが静止した世界で、彼女には何が起きているのか理解できない。
「私はミトゥ……今の私はミワトロ・バシーナよ。ここは、そうね……、夢の中とでも思っておきなさい」
「ほぇ? じゃあ、わたしは夢の中で起こされたの?」
「そこはどうでもいいの! いま大事なことはアナタが、あのアイアンゴーレムとまだ戦う意志があるかどうかよ」
「もちろん、あるよ! みんなを助けないといけないからね!」
「では、アフラ。アナタにアイアンゴーレムを倒せる新しい武器を与えましょう」
ミワトロ・バシーナの広げた掌が光輝き、それが収まると彼女の掌に特殊な形をしたガントレットが現れる。
「これ、ナックルじゃないよ、お姉さん。こんなので殴ったらこっちが壊れちゃうかも……」
「大丈夫よ、こう見えてとても頑丈な作りだから壊れないの。さあ、装着してみなさい」
アフラは、さっそく言われるままガントレットに右腕を通す。
ガントレットは、手の甲の部分に宝玉がはめ込まれた特殊なデザインになっており、肘の部分まで装甲で覆われている。
「ちょっと、ぶかぶかだよ。お姉さん」
アフラがそう言ったとたん、ガントレットからプシューと音がして、各装甲が密着して腕にフィットした。
「おおー」
不思議なギミックに感嘆の声をあげるアフラ。
「それだけでも充分強いけど、そのままではアイアンゴーレムは倒せないわ」
「じゃあ、どうやって倒せばいいの?」
「女神武器がオーラや魔力を武器についている宝玉に注ぎ込むと、特殊な力を発揮するのは知っているかしら?」
「うん。副団長がそういうことして、使っているのを見たことあるよ」
「このガントレットはオーラを注ぎ込むことで、強力な一撃を放つことが出来るようになっているの。アナタがさっき使った、ハイパーオーラパンチを超えるほどの…ね」
「本当に!?」
アフラが期待を、込めた眼でミワトロを見る。
「但し、この武器は女神武器ではないから、発動させればアナタはそれ相応の代償を払わなくてはならないわ」
「そ、それって一体どんな代償なの?」
アフラは不安そうな表情で聞き返す。
「反動が大きくて、アナタの右腕が最悪使い物にならなくなるわ……」
「なーんだ。それでみんなが助かるなら、オッケーだよ!」
ミトゥースは、アフラが迷いもなく即答で答えたので内心驚くと同時に、初めて会った時の紫音を思い出す。
「そう、なら私からはもう何も言うことはないわ。頑張りなさい、アフラ!」
「うん、ありがとう。ミワトロのお姉さん」
アフラがそう言って頭を下げてお礼をする。
そして、頭を上げた瞬間、彼女は何故かアイアンゴーレムから少し離れた所に立っていた。
「また、時間が飛んだ……?」
リーベが、いつの間にかアフラが元気になり瞬間移動したかのように別の場所にいて、しかも右手には明らかにヤバそうなガントレットを装着しているのを見てそう感じる。
「あの女神達、いくらなんでも好き放題しすぎでしょうが……!」
リーベは女神達の介入に思わずそう言葉を漏らしてしまった。
「どんな武器をもらったか知らないけど、アイアンゴーレムには通用しないわ! 全身鉄でできたこのゴーレムは、女神武器だろうとそう簡単にはダメージを与えることはできないわ!」
《アフラ聞こえますか?》
「ミワトロのお姉さん?」
《今アナタの頭に直接話しかけています。それでは、今からその武器【ミトゥースのガントレット】略して、【ミトゥトレット】の使い方を教えます》
出来る後輩女神のネーミングセンスはあまり良くない。
「お願いします!」
《まず、”女神の祝福を我に与え給え“と唱えなさい。その後、宝玉にオーラを注ぎ込みなさい。オーラは回復させておいたので、大丈夫なはずよ》
「はい!」
アフラは拳を握って、そのまま拳を顔の前まで挙げて、宝玉をアイアンゴーレムに向けて「女神の祝福を我に与え給え」と唱えて、オーラを宝玉に注ぎ込む。
すると、宝玉が輝き始め宝玉の周りにある装甲が縦に分かれると、左右にスライドして展開され周りのオーラを吸収し始める。
《ミトゥトレットはアナタのオーラだけではなく、周囲に存在するオーラも吸収して力に変えます》
「なんか、絶対あの子の武器ヤバイ! やれ、アイアンゴーレム!!」
その光景を見ていたリーベは、危機感を感じ慌てて攻撃命令を出すとアイアンゴーレムがアフラ目掛けて歩き出す。
「これが、私がみんなを護るための覚悟の力!」
アイアンゴーレムがアフラの前まで来て、彼女目掛けて鉄でできた強力な拳を振り下ろした。
「ミトゥトレット……インパクト!!」
アフラは、アイアンゴーレムの振り下ろされた拳に、ミトゥトレットをぶつける。
奇しくもフェミニースが、紫音を助けた時と同じ様な状況になった。
ミトゥトレットとアイアンゴーレムの拳がぶつかった瞬間、その強大な力がぶつかりあった事により強力な衝撃がアフラを襲う。
「はにゃ~」
アフラはしばらく耐えていたが、衝撃波に吹き飛ばされ地面を転がっていく。
アイアンゴーレムは右手から砕けていき、そのうちに全てが砕けてしまった。
「なん…… だと……」
今度はリーベが思わずこの台詞を言ってしまう。
そして、自慢のアイアンゴーレムが壊されてすっかり心が折れて、グリフォンを呼び寄せ撤退する。
その頃、紫音達は……
ソフィーとリズが、最後のカップケーキにほぼ同時に手を出して、険悪な雰囲気を出しながら言い争いを始めようとしていた。
「最後の一個みたいッスね…」
「最後の一個みたいね…」
「私さっきまで、訓練していたからお腹へっているッス」
「偶然ね…。実は私もさっきまで訓練していたから、お腹減っているのよね~」
二人はお互い譲り合う気はないが、とはいえ食い意地がはっているとも思われたくないために、あくまで冷静を装いながら相手を言い負かそうとして、舌戦をエスカレートさせていく。
「ソフィーお姉さん、ダイエットするとか言ってなかったッスか? 食べないほうがいいんじゃないッスか?」
「私はその分運動するから、大丈夫よ。それよりアナタだって、間食でお菓子を食べすぎだって、ミレーヌ様に注意されてじゃない。アナタこそ食べないほうがいいんじゃない?」
「私は成長期だから、むしろもっと食べないといけないッス」
二人はできるだけ、穏やかな表情を保ちながら口撃を応酬し合う。
紫音とミリアは、その二人のやり取りをアワアワとした感じで見守っていた。
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