31話  新パーティー問題発生







 その夜、エレナが就寝まで本を読んでいると、リズから栞に通信が送られて来る。


 ”エレナお姉さん、助けて欲しいッス”


 リズからの通信は救援要請だった。

 こんな夜遅くに何事かと思って、エレナはリズの部屋に向かうと扉が少し開いている。


「どうしたの、リズちゃん?」


 エレナが恐る恐る中を覗くと、ベッドの上にパジャマ姿で困った顔で座っているリズに、同じくパジャマ姿で陽気な紫音が彼女に抱きついて何か喋っていた。


「これは一体……?」


 エレナがこの光景に理解できずに居ると


「リズちゃん、腹を割って話し合いあおうよ!」


 陽気な紫音が言葉を発した。


「エレナお姉さん、助けて欲しいッス。もうかれこれ30分ぐらいこの調子なんス」


 リズはこうなった経緯をエレナに説明を始める。


「私がカードゲームのデッキ構成を熟考して、そろそろ寝ようと思ったところにシオンさんが、話したいことがあるって言ってやってきたッス。それでお話をするために部屋の中に入って貰ったら、このように急に抱きついてきて”腹を割って話しあおうよ!”って、ずうっとそれだけを連呼しているんッス」


「リズちゃん、腹を割って話し合おうよ」


 どうやら紫音は、まだ酔っているようだ。


「だから、私は言ったッス。別に私はシオンさんと腹を割って、話すようなことは何もないッスと。シオンさんは尊敬しているお姉さんだし、頼りにもしているッス。それなのに全然離してくれないッス」


「オオリズミ君、腹を割って話しましょう」

「オオリズミ君って誰ッスか……」

「リズちゃん、腹を割って話し合いあおうよ」


「私が晩御飯の時に、シオンさんを探るような質問をしたことを、気にしているんッスかね?」


 リズはエレナにそう質問すると、エレナは自分なりに紫音の事を語ることにした。

 

「シオンさんは私の故郷の村の為に、傷だらけになってオークを退治してくれたの。私はそんなシオンさんを信頼しているし、信頼して欲しいと思っているわ。そんなシオンさんが、私達に嘘をついているのは、それなりの理由があると思うの」


 エレナはさらに続ける。


「それは悪意があって私達を騙そうとしているのではなく、何か理由があってだと私は思うの。リズちゃんもシオンさんの事を、信じてあげて欲しいの。さっきの質問の答えになって無くてごめんね」


 そのエレナの話を聞いたリズも、信頼していることを言葉にした。


「そうッスね……。シオンさんは会ったばかりのミリアちゃんを、命がけで守ってくれたッス。私もそんなシオンさんを信頼してるッス。だから、詮索をするのはやめるッス」


 すると、突然部屋の外からミリアが入ってきてこう言ってくる。


「私もシオンさんのこと、信頼しています!」


 どうやら騒ぎを聞きつけて、外で立ち聞きしていたようだ。


「みんな……、ありがとう! 私みんなの信頼に応えるようにもっと頑張るから!」


 紫音が正気に戻ったのか、いきなり涙目でそう叫んだ。

 そして、そのまま倒れ込んでしまう。


「困ったお姉さんッス……」


 リズがそう言うと、いつの間にか部屋の外にいたミレーヌが


「彼女は私が部屋に運ぼう」


 そう言って、紫音をお姫様だっこすると部屋まで運んでいく。

 こうして、波乱(?)の一日は過ぎていった。


「うう……、頭痛い、気分悪い……。もう、絶対お酒なんか二度と飲まない……!」


 翌日、紫音は二日酔いによって朝から苦しんでいて、このような二日酔いになっている時だけ反省する酒飲みのような台詞を言っていると、ミリアが心配してお水を持ってきてくれる。


「大丈夫ですか、シオンさん?」

「ありがとう、ミリアちゃん。ごめんね、駄目なお姉さんで……」


「そんなことないです! ミレーヌさんと同じくらい、シオンさんは私の憧れです」

「ミリアちゃんは、ミレーヌさんだけを憧れるべきだよ……」


 ミリアはブンブンと頭を横に振って否定してくれた。


(なんて可愛いこと言ってくれるの、ミリアちゃんマジ天使!)


 紫音が思っていると、ミレーヌが出仕する前に様子を見に来てくれる。


「飲んだ量自体は少ないから、君の状態異常耐性スキル次第では、昼までには回復するだろう。それまで安静にしているといい」


 ミレーヌはそう言って、行政府に出かけていく。


「ミリアちゃん。取り敢えずみんなには、お昼まで自主訓練しておいて伝えておいて」

「はい」


 ミリアはそう返事すると出て行った。

 ミレーヌの言うとおり、昼近くになると紫音の二日酔いはすっかり良くなっていた。

 みんなとお昼ご飯を食べた紫音は、こうみんなに提案する。


「お昼休憩が終わったら、みんなで戦闘訓練しよう!」


「そうですね。各々この新しいPTでの立ち位置とか戦法などを、予め決めておいたほうがいいかも知れませんね」


 エレナは紫音の提案に相槌を打つ。

 こうして、昼からPT戦の訓練をすることになった。


 まず、リズが敵を見つけエレナが強化魔法を掛ける。

 それからリズが遠距離攻撃をして、紫音が接近戦で敵をひきつけて、リズが支援攻撃をおこないながらミリアが魔法を撃つ。


 戦闘のシミュレーションを何度もおこなった。


「これで明日から、ばっちりだね。まあ、あとはその時々の状況に合わせたアドリブで!」


 最後に今迄の訓練を否定する言葉が出てしまう紫音。


「では、あとは自主訓練で」


 紫音達は晩御飯まで自主訓練をすると、ミレーヌが帰ってくる。


「みんな頑張っているな、そろそろ晩御飯にしよう」


 晩御飯を食べていると紫音は、リズの元気がないことに気づき声を掛けた。


「どうしたの、リズちゃん? 元気ないみたいにみえるけど?」

「なっ、何でも無いッス……」


 そう言ったリズは、思い悩んでいるように見えたので、晩御飯を食べ終えたあとミリアは、親友が悩んでいるのを見かねて、彼女に問いかけてみる。


「リズちゃん…、悩みがあるなら言って欲しいの…。私では力になれないかも知れないけど……」


「ミリアちゃん……」


 リズは親友が心配してくれているのに気が引けていると、今度は紫音がリズを説得することにした。


「リズちゃん、ミリアちゃんの言うとおりだよ! 私達仲間なんだから、悩みがあるなら言って欲しい」


 二人の言葉を聞いた彼女は、その重い口を開き始める。


「実は……、矢弾代をカードゲームに使ってしまったッス。まさかこんな早く実戦するとは思って無くて、今日の午前中にカードゲームのパックを買いに行って……。それで、次こそはレアカードが出る、次こそはという誘惑に負けてしまったッス。そして、気づけばお小遣いを全部……。私は駄目な子なんッス!!」


「「「「ええ……」」」」


 予想外の悩みに一同は唖然とした……


「あ、でもおかげで一枚レアカードが手に入ったッス!」


 しかも、あまり反省もしていない様子だ。


「駄目じゃない、リズちゃん! 無駄遣いしたら!! お小遣いはもっと計画的に使わないと!」


 紫音が少し的はずれな叱責をしたので、エレナが修正する。


「駄目でしょう、リズちゃん。戦闘で必要な矢弾代まで使ってしまうのは、PTなんだから他の人に迷惑がかかるでしょう?」


 エレナは諭すようにリズを諌めた。


「ごめんさないッス……」


 すると、リズはしょぼんとした表情で素直に謝罪してくる。


「そうだよリズちゃん! どうしてそんなことしたの? みんなに迷惑がかかるでしょう?」


 紫音はエレナの叱り方を見て、同じように叱ってみた。


「シオンお姉ちゃん… 迷惑かけてごめんなさい……。リズね、もうこんな事しないから…」


 するとリズは、少し上目遣いで瞳を潤ませて、まるでミリアのような表情をして謝ってくる。

 紫音はリズのそのあざと可愛い謝罪の仕方に、このような的確な分析をする。


(あざとい! 普段は私の事をお姉ちゃんなんて、絶対に呼ばないのに。こんな時だけあざと可愛いくして……!)


「もう、今回だけだよ、許すのは~」


 だが、紫音は簡単に籠絡された。


「シオンさん?! そんなに簡単に許しては駄目ですよ。あざと可愛いのは分かりますけど!」


 エレナは簡単に籠絡された紫音に苦言を呈する。


「エレナお姉ちゃんも、ごめんなさい……」


 すると、リズは紫音の時と同じ様に、少し上目遣いで瞳を潤ませて、ミリアのような表情をして今度はエレナにあざと可愛いく謝った。


「今度からは、気をつけるのですよ~」


 そして、二人して籠絡されてしまう。


「こら、君達そんなに簡単に許しては駄目だろうが」


 ミレーヌがそう言うとリズは


「ミレーヌ様、ごめんなさい……」


 二人の時と同じ様にあざとく謝ったが、頭を鷲掴みされてしまった。


「私にそんな子供だましは通用しない。そうやって乗り切ろうとしているのは、あまり反省していないということだな。」


「痛い、痛いッス。海千山千の年増には効かなかったッス」

「誰が年増だ(怒)」


 ※ちなみにミレーヌ様は20代後半です。


 ミレーヌのアイアンクローの威力が必然的に上がる。


「イタタタタタ! 痛いッス! ごめんさないッス! 反省してるッス!」


「私は君の御両親から、君を指導するように言われて預かっているのでな。悪いことをすれば、御両親に代わってお仕置きする。次からはちゃんとするのだぞ」


 ミレーヌは反省したであろうリズを開放する。

 さて、矢弾がないならどうしたものかと考える紫音であった。

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