第4話 任意同行
朝早く——、ジグとカノンは走りこみをしていた。
カノンは勝手についてきた。
「な、なんで、……、魔術で強化できるのに、……か、身体を鍛えるんですか?」
息も絶え絶えで、カノンが尋ねた。
「……元を鍛えた方が効果が上がる」
ジグはあまり言いたくなさそうに答える。その声にはまだまだ余裕があった。置き去りにするのもはばかられたので、ペースを落としたからだ。
「それに魔力は生来のものから、そこまで成長しない」
「身体強化は……、あまり実戦向きではないと……、聞いたことがあります」
カノンは息を整えながら少しずつ、区切って言った。
「近接戦闘では、術の発動のタイムラグが致命的になる、って」
ジグは今度は答えは言わず、
「間違ってはいない」
とだけ返事をした。
腕立て、懸垂、腹筋と一通りの筋力トレーニングが続いた。
カノンは文句も言わず、同じ様にはできないまでも、できるだけジグの真似をする。
「ちょっといいかい?」
初老の警官が声を掛けてきた。
その傍らには軍人がついている。
軍属である警察補助隊には逮捕権はあるが、捜査権はないため、普段は警官とともに行動している。
基本的には刑事と隊員がペアを組んでいることが多い。
軍人付きの刑事がいるということは、それだけ一般人にとって驚異となる犯罪者の捜査をしているということだ。
「なんだ?」
「ちょっと、事件でね。あんた魔術師だろう? 登録証を見せてくれ」
ジグは魔術師登録証を取り出した。
「なんで魔術師だって分かった?」
「カンだよ」
「へぇ……」
「まあ、種明かしをすると、そっちの相棒が無意識に警戒してるからよ……っと、魔力値Eランクだと?」
刑事は登録証を見て眉を寄せた。
相棒と言われた軍人はどこか納得したように、
「やっぱり……」
と頷いた。
「あんた、ちょっと一緒に来てくれや」
それを聞いて、カノンはギョッとした。
完全に容疑者扱いだったからだ。
「どこまで?」
対するジグは、ただ面倒くさそうに質問を返す。
「取調室までだよ」
「面倒だな……」
「最近、軍の士官が連続で襲われてるんだ。おそらく実力はAランク以上の殺人犯……だが、該当ランクに登録されている魔術師に容疑者が見当たらない」
軍人が事件の説明をした。
「さて、何故かな」
ジグの顔を覗き込むように刑事が言う。
「さあ?」
ジグはつまらなそうに返す。
「俺は、低ランクの中に実力を隠してるのがいるか、低ランクの身分証を違法に手に入れたか、って睨んでるんだよ」
「なるほど」
「相棒のレイ軍曹は、若手だから階級はまだ軍曹だが、魔力ならBランク上位だ。それを無意識に警戒させるなんて、相当な使い手だろう?」
ジグは、そこでまじまじと軍人を見た。
金髪の青年で、背はジグと同じくらいか。軍属らしく背筋を伸ばしているので、少し高く見える。いつでも動けるように、刑事とジグの間に割り込めるように、警戒しているのが伺える。
「ふーん……、どうせヴィンセントの教え子だな。中途半端な鍛え方だ」
「なに?」
レイ軍曹が眉を寄せた。
「とりあえず、連れて行け。面倒だけど付き合ってやる」
ジグはカノンの方を見て、
「おい、バイト。『本日休業』の張り紙出しておけ。カウンターの下の引き出しに入ってる。わからなかったら手書きでもいい」
「師匠……」
心配そうに見つめるカノン。
「今日中には帰る」
「そんなに早く帰さねえぞ」
刑事が言う。
しかし、ジグはもう一度同じことを繰り返す。
「今日中には帰る」
「……師匠の容疑が晴れるように頑張ってみます」
「いや、いいよ。どうせ……」
「コツもわかりましたから」
そう言って、カノンは魔術で身体を強化した。
魔力の出力をほぼゼロで、ただ発動しただけだ。
「こうですよね?」
そのまま歩いて去っていく。
「まじかよ……」
それは先程のカノンとジグの話の答えだった。
身体強化発動のタイムラグは、接近戦において致命的だ。
もちろん、発動速度は鍛える。
だが、それは身体強化においてはもっといい方法がある。
常に術は発動しておくのだ。
ただしほぼゼロの魔力を使って。
強化したい時だけ出力を調整することでシームレスに身体能力を強化できる。
(それを見ただけで、気づいただと?)
ジグは驚愕からすぐに立ち直ったが、急に不安になった。
中途半端な技術は危険だ。今回の場合、戦闘の技術なので文字通り、生兵法は怪我の元になる。あんな付け焼き刃で強くなったつもりでいたら、早死にしてしまう。
早急に、カノンの処遇を決める必要があった。
突き放してしまうのか、正式に弟子にするのか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます