桜の記憶

 仮に、運良くこの一撃をかわしてもその後の追撃を凌ぐ余裕が果たしてあるか。


「呆気ないね、終わりかな?」


 顔をひきつらせる俺を愉快そうに眺める片桐の、幕切れを告げる言葉と共に――


 こちらに狙いを定めたサンドワームが、顔面めがけて飛び付くように急降下を開始。


 大した距離のない間合いを一瞬で詰め、目前まで来たまさにそのときだった。


「――ちっ、何だっ……!?」


 眼前すれすれまで接近していたサンドワームは、俺の頭部から蛇のような動作で軌道を外し片桐の元へと戻っていく。


「……?」


 いったいどうしたのかと相手を見ると、片桐は狼狽えながらまるで何かを追い払うようなように顔の前で手を振り回していた。


 そして、俺への追撃をやめた二体のサンドワームは片桐の周囲を跳ね回る。


(まさか……)


 まるで見えない何かを攻撃しているようなその光景に、俺はもしかしたらとある予感を抱く。


 ブゥゥゥゥゥ……ン、という耳障りな羽音が暗闇から響いてくる。


 それは段々大きくなり、やがて不快感が込み上げるくらいまで肥大した。

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