桜の記憶

「頑張って逃げ回って、少しでも長生きすれば良いよ。あ、一応言っておくけど、サンドワームの身体の強度は分厚いゴム毬と同等。適当に攻撃をしたところでダメージは与えられないだろうし、むしろきみに不必要な隙が生まれるだけだから」


 耳に届く片桐の不快な声。


 空中にいた二体目が入れ替わるように地中に潜る。


「くそっ……!」


 またしても走りだし、ひたすら敵の攻撃回避に行動を切り替える。


 酸欠で頭が痛い。


 こんなことになるなら、普段からもっと運動をしていれば良かったか。


 そんな愚痴を浮かべていたせいかもしれない。


 突き出ていた木の根に足を取られて転倒し、俺は強かに顔面を打ち付けた。


 咄嗟のことに動きが鈍る。


 痛みが走った鼻からは血が出たようで、押さえた手を赤く汚す感触があった。


(――!)


 何とか身体を起こし走りだそうとして、それが一手遅かったことに気づく。


 空中に飛び出したままの一体が、こちらに狙いをつけている。


 自分が走りだすのと、サンドワームがこちらの身体に穴を開けるのでは、どう考えても後者の方が早い。

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