桜の記憶

 毒づきながら、片桐へ向かって走りだす。


 動かずにいればやられてしまう以上、足を止めているのは自殺行為。


 少しでも敵に標準を定めさせぬよう、撹乱を仕掛けるしかない。


 片手をポケットに入れて、悠然とした態度で立っている片桐。


 このまま近づいて顔面を一発でも殴れれば、いくらかは気分も晴れそうな気がする。


(――無理だろうけどな!)


 相手までの距離が詰まりかけたところで、俺はおもむろに走る軌道を変えた。


 一直線の疾走から、片桐の背後へ迂回するよう僅かに右へそれる。


 間髪入れず、背後で物音。


 首だけで振り向くと、ちょうど今走っていた直線上の地面からサンドワームが飛び出したところだった。


(やっぱり待ち伏せてやがったか)


 焦りのない片桐の顔にそんな予感はしていたが、見事に的中だ。


 サンドワームの役目は片桐の護衛。


 であるならば、片桐に攻撃を仕掛ける者へ優先的に飛び付くのは当たり前。


(その習性を利用できれば――!)


 走っていた足を止め、近場に落ちていた小石を拾う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る