桜の記憶
◆
方向を誤らなかったのは、素直に運が良かったと言える。
自分にガーディアンの害はないと言われているが、警戒だけは怠らぬよう意識しながら廃墟へと戻った。
夏休みに入ってすぐのあの日にも見た、黒く大きなシルエット。
あのときは、まさか自分がこんなふざけた面倒事に巻き込まれるなど微塵も予測していなかったが。
(人生一寸先は闇ってのは、まさにこういうことを言うんだろうな)
そんな皮肉を胸中の中だけで浮かべ、俺は草むらから周囲の様子を窺った。
元は駐車場だったであろう場所。
その隅の方に積まれた廃材へ腰掛けている片桐の姿を見つける。
薄暗いので明確ではないが、下を向いて何やら書き物をしているように見える。
また新しく設定を創り出しているのか、それとも変更でもしているか。
「……」
まさか桜に関する設定をいじっているのではという、焦燥のようなものがせり上がる。
それをどうにか自制して、俺は茂みの中から抜け出した。
ゆっくりと時間をかけて前へと進み、片桐とは二十メートル程の距離をおいて足を止めた。
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