桜の記憶

「オーケー、それじゃあちゃんと教えよう。サクラ、きみが帰りたがっている故郷、ハデスなんて最初から存在していない。きみの頭の中にある記憶は、全て作りものなんだ」


「……それ、どういうこと? ハデスでの記憶は間違いなく残ってる。あたしが――」


「だからその記憶自体が偽りの記憶なんだよ」


 反論しかける桜を遮るように、片桐の言葉が重なり響く。


「もっと言ってしまえばサクラ、きみは異世界の住民でもない。僕の能力によって生み出された疑似生命体だ。こいつらと同じようにね」


 翼竜とガーディアンを交互に顎で示す片桐。


「何……言ってんだお前」


 桜の正体が目の前にいる化物たちと同じ?


 意味がわからない。


「要は、全て僕の能力だよ」


 ズボンのポケットから、片桐は一冊のメモ帳を取り出した。


 見覚えがある。


 昨夜、狼男を消す際に使った物だ。


 あの中の一枚を破り火を点けたら、狼男は跡形もなく消失した。


「僕の能力はね、“物語を創る”ことなんだ。このメモ帳には、サクラという悪魔少女を主人公にした物語のプロットが書いてある」

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