桜の記憶

「……」


 暗くなった道には、まだ多くの若者が行き交う。


 それらの横を無関心に通り過ぎながら、片桐はこれから始まる宴へと思考を切り替える。


「もうすぐだ……」


 全ての事実を知ったとき、悪魔であるあの少女はいったい何を思い、どんな表情を見せるのだろうか。


 なかなかに、想像がつかない。


 しかし、それゆえに楽しみでもある。


 にやけそうになる口元を無理矢理引き締め、廃墟までの道順を脳裏に巡らせる。


 やはり、今から向かってぎりぎり間に合うくらいか。


「サクラの頑張り次第では、長い夜になりそうかな……?」


 もっとも、その方が自分にとっても楽しいが。


 温い微風が通り過ぎる。


 ぼんやりと浮かぶ月を見ながら、片桐は愉快そうに目を細めた。

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