桜の記憶

 クラスは違うが学校も同じであるため桜も知ってはいるが、この二人がまともに接するのは今日が初めてのはずだ。


 有紀同様、成り行きで根崎も共に行動することになり、ボーリングをしようという根崎の提案でついさっきまで男女対抗のガチ勝負を繰り広げていた。


 ルールが分からなかった桜が球をピンに投げつけようとするのを死にもの狂いで押さえつけたこと以外は特に何事もなく、平穏な時間が過ぎてくれた。


『何だか、この世界のみんながやるお別れパーティみたいだね』


 途中、はしゃいでいた桜がそんなことを呟き、複雑な気分を味あわされると同時に、これが桜が共に混じる最後の時間になるかもしれないのだと、妙に実感させられてしまった。


「どうしたの、雄治。夕空なんか眺めて、悩みごとかい?」


 向かいに座る根崎の声で、思考が現実に戻る。


 スッと首を店内に戻すと、全員がこちらを窺っていた。


「別に、今日は出費がでかかったなと思ってさ。節約しようと決めた矢先でこれじゃあ、年末までに金貯まんねぇわ」


 苦笑と一緒に肩を竦め、そう言って誤魔化す。

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