桜の記憶

 使い終えたタオルを洗濯機に放り込む。


 あまり食欲はないがパンくらいは食べておこうか。


 そんなことを考えつつリビングへ入ると、ソファで雑誌を読んでいた姉貴がこちらに気づき顔を上げてきた。


「お、起きたな寝坊助小僧。またゲームでもやって夜更かししてたの?」


「してねぇよ。寝付けなかっただけだ」


 当然ながら、昨夜の俺と桜の行動は家族には知られていない。


 たぶん、桜が家に来ていたことすら気づいていないはずだ。


「母ちゃんは?」


 室内を簡単に見回しながら俺は訊ねた。


 記憶が正しければ、今日は母親も仕事が休みだと言っていたはず。


「出かけた。久しぶりに友達とお食事会してくるんだって。夕方までは戻らないって言ってたよ」


「……ふぅん」


 雑誌に目を戻しながら告げてくる姉貴に気の抜けた返事を返し、コーヒーメーカーをセットする。


 それから食パンを取り出しトースターに入れると、一度大きくあくびをした。


 思った通り、外は快晴だった。


 テレビでは天気予報が流れ、今日一日穏やかな陽気が続くと女子アナが喋っている。

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