桜の記憶

 ただ、帰り道を歩く彼女の表情が何かを思案している気配を漂わせていたことだけは間違いないと思える。


 平静を装って他愛のない雑談を振ってくる桜の様子は、どことなく固く見えた。


(……ひとまず顔でも洗って頭ん中切り替えるか)


 昨夜の回想を中断させ、俺はのそりと重い身体を起こした。


 寝るのは遅くなったが、その分起きるのも遅かったため睡眠自体はまとも過ぎるくらいにとれているはずだ。


 それでも頭が怠く感じるのは知らず疲れが残っているか、単に寝起きだからのどちらかだろう。


 軽く首を鳴らして息を吐き、部屋を出る。


 ゆっくりとした足取りで階段を下りていくと、リビングからテレビの音が聞こえてきた。


(そういや、今日は馬鹿姉貴も休みだっけか)


 シフト制である姉貴の職場は、土日祝日が定休日というような概念はない。


 むしろそういった日に休みがある方が珍しいのではないだろうか。


 洗面所に直行し、顔を洗って歯を磨く。


 鏡に映る自分の顔は、どことなく生気がないように見えた。


(やっぱ疲れてんのかな。精神的に)

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