桜の記憶

「じゃあ、どうしてそんな力が……」


「普通の人間だと、特別な力があったらおかしいのかな? メジャーになっていないから異質に感じるだけだろう? まぁ、稀にいる特異体質な人間と同じだよ」


 男が、顔の高さまで右腕を挙げ、


「せっかくだし、もう一つ良いものを見せようかな」


 パチンッと軽快に親指を鳴らす。


 次は何が始まるのかと相手の出方を窺っていると、いきなり空中に光の束が出現した。


 夜闇を照らし出す光量に、咄嗟に腕で顔を庇う。


 やがて、光が収束して闇が戻ると、そこには見慣れぬモノが浮遊していた。


 蝶々のような形の、透明な羽根。


 白い髪に白い肌。そしてそれを包む、純白のヴェール。


 光の束より現れたのは、まるで天使のようにも見える、恐ろしいほどの美女だった。


 フレスコ画にでも登場しそうな、そんな神々しさを受けそうになる。


「あれは、精霊?」


 緊張したような桜の呟き。


「知ってるのか、桜?」


「うん、確かあたしの世界に住んでる住人のはず……」


「そう、光と癒しを司る精霊、アスカ。僕の大切な仲間だよ」

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