桜の記憶

 桜の方にも目をやると、結局最後まで話の流れが掴めなかったのだろう、あからさまに釈然としない様子で席に座るところだった。


 授業も始まらぬうちから疲れ切った心地になりつつ、ぐるりと首を回す。


 やがて、担任が教室に現れホームルームが開始される。


 ぼんやりと話を聞き流しながら、俺は加藤と笹木が話した事件のことを頭に思い浮かべた。


(まてよ。駅前で起きたって、ひょっとしてこれやばいんじゃないか?)


 冷静になって考えてみれば、今夜俺はそこに行かなければいけないのだ。


 訳のわからない殺人が発生した現場の近くへ、よりによって夜中に足を運ぶなどどう考えても正気の沙汰ではないだろう。


 大体、そんな現場の近くを高校生がうろついていたら警察に補導されるのがオチだ。


 だけど、その一方で俺はこんなことも考える。


 ひょっとして、今回起きた事件は桜の記憶喪失と何らかの繋がりがある可能性も含んでいるのではないのか、と。


 昨日、桜は本屋で嫌な視線を感じとったと言っていた。


 そして、今朝の猟奇殺人。

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