桜の記憶

 ゴシック、ゴスロリ、そんな言葉が一瞬脳裏に浮かぶ。


「あたしが言ってること、これで証明できるかな?」


 言いながら、サクラはそっと胸の前で両手を組む。


 そして、静かに目を瞑り祈るようなポーズをとった。


 瞬間――。


「――!」


 すぐ近くで風が舞い上がるような不思議な感覚を覚え、俺は反射的に目を閉じてしまう。


 同時に、バサリッという鳥が羽ばたくような、大きな音が間近で聞こえた。


 いったい何事かと恐る恐る目を開くと、黒い羽根が一枚、ヒラヒラと鼻先を掠めて落ちていくのが目にとまる。


「どう? これであたしの言うこと信じてもらえる?」


「え……?」


 問われて、足元へ落ちた羽根から顔を上げると、そこには背中に大きな黒翼を広げたサクラの姿があった。


 バサリともう一度音を立てて翼を動かしながら、誇らしそうにこちらを見つめ返してきている。


「嘘……だろ?」


 呆然となりながら呟く。


「嘘なんかじゃないよ。ちゃんと本物でしょ?」


 言って、上半身を捻って背中を見せるサクラ。

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