桜の記憶

「……」


 言葉を失い、俺は絶句する。


「いくら何でも、他人のプライバシーまで覗き見するほど落ちぶれていないわ。どうかな? あたしの言うこと、理解してもらえた?」


 かざした手のひらを静かに下ろし、サクラは笑う。


 もはや完全に意味不明な展開に俺が口をつぐんだままでいると、サクラはまだこちらが疑っていると思ったのか、すぐに笑みを引っ込め焦れったそうに鼻から息をついた。


「まだ説明が足りない? もしあたしの正体を疑ってるなら、目に見える証拠も見せてあげるけど」


「え――?」


 突然俺の腕を掴み、強引に部屋の外へと連れ出そうとするサクラ。


 本当に、この細い腕のどこにこんな力があるのか。


 足がもつれそうになりながら、踏み止まることもできず通路へ戻された。


 パッと手を放し、くるりとこちらへ振り向いたサクラの顔は、勝ち気な笑みを浮かべている。


 月明かりに照らされて始めてちゃんと認識できたことだが、彼女の着ていた服は何というか真っ黒いキャミソールのような物に見えた。


 詳しくはないが、西洋風の人形が着ていそうなイメージの服。

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