桜の記憶

 先程と同様、異様に熱を帯びた体温が頭の中に伝わってきた。


「……長沢ながさわ 雄治ゆうじ。十七歳。男。父、母、姉との四人暮らしで、二年前からペットに犬を飼い始めた。犬の名前はポテマヨ。これは姉がつけた名前」


「――は?」


 突然、無表情に淡々と話し出した少女の台詞。


 それは、紛れもなく自分の個人的な情報だった。


「嫌いな食べ物は梅干しとひじき。理由は、どっちも小さい頃に食べて嘔吐したことがあるから」


「ちょ、ちょい待った! 何できみがそんなこと知ってんだよ? 俺たち初対面だよな?」


 頭に触れる手を咄嗟に払いのけ、俺は戸惑いながらもう一度少女の姿をまじまじと眺める。


 すると彼女は目を細めながらニヤリと笑い、たった今払いのけた手を目の前で広げてみせた。


「あなたの記憶を直接読んだだけよ。これがあたしの能力。この世界の言葉も、さっきあなたを引き倒したときに記憶をコピーさせてもらっただけ」


「コピー? 俺の記憶から言葉を覚えたってのか?」


「そういうこと。あ、でも安心して。余計な副作用とかは一切ないし、読み取った記憶も必要最低限の内容だけだから」

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