第19話  現実主義者、理想主義者



[第二部隊を退けた日]



時刻は23:00、後1時間で日付が変わるところだ。


そんな夜中に彼、チェストミール・レーガーは嫌な夢を見て起きてしまい、とりあえず水を飲むためにキッチンへ来ていた。



リズと喧嘩をしてはや3日、彼は未だにリズの考え方を理解できないままでいた。



「クソ……。」



現実主義者であるチェスは元からリズとは絶対に合わない所があった。


もし、今学園生活をしていたらここまで仲がこじれる事はなかっただろう。



「喧嘩したかったわけじゃないんだ…。」



彼のつぶやきは闇に消えていった。



彼の幼馴染であるリズは辛い時に支えあった仲だ、早く仲直りしなければならないと思っていながらも妥協はしたくない、すべてわかったわけじゃないのにまるでわかっているかのようにいってくるあいつが許せない。



そんな矛盾した考えが頭の中でぐるぐると円を書いている。


相手のことは知りたいくせして自分のことはあまり知られたくない、そんな自分の考えに反吐が出そうだ。



「なんでうまくいかないんだ…いつもそうだ…。」



いつだってそう。


うまくいって欲しい時に限ってうまくいかないことが多い。



家出をする前だってそうだった。


親に認められたかったからこそ魔法戦士になろうとしていた。



しかしそもそも才能がなかったのだろうか……



優秀な魔法戦士の父親、天才だと言われている政府役員の母親。


それに比べて人並みにしか勉強もできない。魔法書も理解スピードが普通な自分…



だからこそ頑張った。


自分にあった効率的な勉強法を見つけ、魔法書の解読スピードを上げるためにも片っ端から読んだ。



彼は中学に入ってから『天才だ!』と、周りに言われてきたが…


彼は世間一般で言う『天才』ではなく、『天才』に見える『秀才』だった。



だが親はそれだけでは満足せず…


今後の戦争に向けて厳しくなった。



そんなことがあったからなのか、親と意見が食い違い、ついには大喧嘩にまで発展する始末…



耐え切れなくなったチェスは昔知り合ったレオの家に逃げ込み、逃げ込む前にローズベルト学園への入学を決意。



そのことを話し、入学費は親が払ってくれるとはいっていたが…



必ず学年主席を取れだの言われ、元から出て行く気だったが…


完全に親に愛想を尽かし、親から離れ、ファミリーネームまでも嫌うようになっていた。



「はぁ…なんでこんな嫌なことばっか覚えてんだろ…。」



『嫌気がさしてくる…。』吐き捨てるかのようにその言葉を発した後


キッチンから自室へと戻っていった。



自室へ戻る最中、嫌なことを頭から振り払おうとしていたが、幻影のように頭にこびりついて離れてくれなかった。



自室に戻った後でも


愛想を尽かされるのではないかと不安がつのるなか、ベットに入り、現実を否定するかのように深い眠りについた………



部屋はまるで彼の心情を表しているかのように真っ暗だった…




チェスが一人悩んでいた同時刻。



リズは眠れずにいたため、ベッドの上で考え事をしていた。




「…あれ?」




リズが部屋を見渡すと、チェスがいるはずのベッドには誰もいなかった。




チェスはどうしたんだろう…。




不思議に思い探そうかとも思ったが、会うのも気まずいと考えたため、ここに留まることにした。




チェスと喧嘩をしてはや3日。




相手を傷つけることがしたかったわけじゃないし、ただ自分に任せて欲しかっただけなのに…。


仲直りだってしたいのに…。




この時のリズは矛盾した考えを持っていた。


仲直りしたいけど相手が折れてくれないと嫌だという考えだ。




リズは気づいていなかった。


自分がどれほど無謀なことを考えていて、チェスが考えた案がこの状況の中で一番和解できる方法だったのかを。




なんでわかってくれないんだ!チェスのわからずや!


それに私は押し付けてなんかないもん!




脳裏に浮かぶのは喧嘩した日にチェスに言われた言葉




『お前の理想を俺に押し付けんな!』




理想なんかじゃないもん…それが普通だもん…。


リズは自分のことについてよくわかっていない部分があった。




仲直りしたい…みんな助けたい…。


悪い人なんていないはずだよ…みんないい人のはず…。




リズの中ではそれが普通であった。


悪い人はいない、みんな道を踏み間違えただけ、故意で悪いことをする人なんかこの世にいない。




しかしそれは間違っていた。


故意で悪いことをするものもいれば、自分に都合のいいように事実を改変するものも中にはいる。




世の中とはそんなものだった。


リズが思っているようなユートピアではなく、現実はディストピア。




正義が必ず勝つ世界ではなく悪がのさばる世界。




チェスを説得しなくちゃ…。




ただ、チェスの言っていることが現段階で一番合理的であると知らないリズは、もっとも成功する確率の低い、いわば非合理的な判断をしていた。




メリアたちは天使だからきっとわかってくれるはず!


だいたいチェスのメリアたちへのイメージが間違ってるかもしれないしね!




実のところ、リズの考えてることは現実とは掛け離れていた。


メリアたちは慈悲に満ちているわけではなく、生態系を崩すような行いがあれば容赦なしなど…




その行い自体が生態系を崩しているような気はするが、メリアたちは自分たちに都合がいいようにしたいようで、自分たちがしたことならいいという…自己中心的な思考の持ち主だった。




この防衛戦が終わったらチェスと話をしよう!




リズはそう決心し、眠りについた。




この考えのせいでさらに関係が悪くなるとは知らずに…

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