062, 0-30 幕間・生意気男子の散財
・デュークの散財
前回のあらすじ
ヒゲ・・・ヒゲ・・・
次の日の朝、アデラと一緒に宿近くの食堂で御飯を食べる。
「今日はどうする?」
「今日はお店に行こうと思うの。まずは靴屋」
「靴屋?キャスに会いに行くのか?」
「ブーツを買おうと思って」
「ブーツ?」
「冒険者用のブーツ」
「でも、ジョニーはお金に余裕があったらって言ってなかったか?」
「森に入ったら、小型モンスターに噛まれるかもしれない。噛まれたら病気になるかもしれない。だから、先にブーツを買おうって考えたの」
ジョニーもよく考えろって言っていた。
「そうか。じゃあ靴屋に行こう。高くて買えそうになかったら、また考えよう」
その後もどこへ行くのか話し合って、一日の予定を決める。
そして俺たちは、キャスが働いている靴屋に行く。
靴屋に入ると「アデラ!会いに来てくれたの?!」と嬉しそうにアデラに抱きつくキャス。
「違うよ。冒険者用のブーツを見に来たの」
「もうっ、そこは嘘でも会いに来たって言ってよ」
「キャスに会いに来た」
「いまさら遅いってばもう・・・」
アデラとキャスは全然性格が違うけど、不思議と仲良しだ。
「冒険者用のブーツはこっちだよ」
キャスの案内で靴屋の奥に行く。そこには沢山のブーツがあった。
「ゴホン、冒険者用のブーツはよく売れる商品の一つです。壊れたブーツは銀貨1枚で引き取って、解体して使えるパーツを流用します。浄化の魔法をかけた後、新品として金貨2枚で売るのです。ボロ儲けです」
なんか詐欺みたいだな、と俺が思っていると、アデラがキャスに聞く。
「キャスなにそれ?」
「店長さんの受け売りだよ」
「たぶんそれ、お客さんに言っちゃ駄目だと思う」
「もちろん、他のお客には言わないよ。アデラだけ特別だから」
(俺も聞いちゃったんだけど・・・)
キャスは、アデラの足に合うブーツをすぐに探し出すと、アデラを引っ張って、少し離れた場所でおしゃべりを始めた。
俺のブーツは探してくれないのか?、と思いながらブーツを探していると、キャスが急に「きゃーーー」と叫ぶ。
「どうしたんだキャス」
「デュ、デュークには関係ないよ。ブーツ早く選んじゃって」
「俺、お客なんだけど・・・」
「お選び下さいお客様」
俺がブーツを探している間、キャスは「きゃーーー」「きゃーーー」と何度も叫ぶ。
ブーツを見つけて俺がキャスの元に行くと、キャスは店長さんに叱られていた。
あんなに騒げば仕方がないけど、友達だから助ける。
「あの!これ、買いたいんですけど・・・」
「ああ、はい。ありがとうございます」
ブーツを買って靴屋を出る。
キャスはアデラに抱きついて、別れを惜しんでいた。
「また来てねアデラ」
「うん、ブーツが壊れたら来るね」
「もうっ、相変わらずなんだから」
(俺もクリフに会いたいな)
「クリフに会いに行こう」
「どうして?」
「ナイフを売るためだよ」
「でも、クリフがいるのは鍛冶屋だよ?ジョニーは武器屋に売れるって・・・」
「武器屋も鍛冶屋も似たようなもんじゃん。それに鍛冶屋なら、どのナイフが採取に使いやすいかクリフに聞けるだろ」
「そうだね。じゃあ鍛冶屋に行こう」
鍛冶屋では、火の前で剣を叩いているオジサンがいた。
クリフは少し離れた場所で木を削っていた。
「クリフ!」
「デュークにアデラ、どうしたんだ?」
「ちょっと相談があってさ。このナイフの中で採取に使えそうなのってどれかな・・・」
「なんでこんなナイフばっかり・・・」
「モンスターを退治したら持ってたんだ」
「そうか・・・モンスターか・・・。採取なら、このギザギザしたのが付いてるナイフだな。セレーションって言うんだ。この部分で
「ク、クリフ!もういいよ!!もう、わかったからさ・・・」
「そ、そうか?とにかくこのギザギザだな。これが便利だ」
「クリフはもうそんな沢山の事を覚えたのか?」
「ここで覚えたんじゃないよ。孤児院の図書室にそういう本があったんだ。神父様に相談したら刃物について書かれた本を貸してくれたんだ。それで勉強したんだ」
クリフが昔、忙しいって言ってたけど、勉強してたのか・・・。
俺とアデラは、クリフのアドバイスに従ってナイフを選ぶ。
「あとさ、残りのナイフを売りたいんだけど、ここで買ってもらえるかな・・・」
「それは親方に聞いてみないと」そう言った後、クリフはいきなり大声を出す。
「おっ!やっ!かっ!たっ!親方ちょっと話があります!!いいですかっ!!」
「なんでそんな大声で・・・」
「親方、集中してると周りの音が聞こえなくなるみたいなんだ。これぐらい大声じゃないと駄目なんだよ」
「へぇ~」
クリフの声はちゃんと聞こえたみたいで、親方さんがこっちに来る。
「どうした」
「親方、このナイフ、うちで買い取れますか?友達がこれ売りたいって」
「買い取れるっちゃ買い取れるが・・・溶かして使うから大した値段にはならないぞ・・・。そっちの2本のナイフ、それ離して置いてるのは意味あるのか?」
「採取用に使うとかで、こっちは売らないやつです」
「お前が選んだのか?」
「はい、採取ならこれかなって」
「ふ~ん、買取じゃなくて交換にしろ。
「えっ?でも、最初は木剣作ってイメージを磨けって・・・」
「なんだ、やりたくないのか」
「いえ、やります!」
「まぁ、でも、一本だけだぞ」
「はい!」
親方さんが戻っていくと、クリフはナイフの
さっきは途中で止めちゃったけど、どうしてクリフが刃物に夢中なのか知りたくなった。
「なあ、クリフ。クリフはどうしてそんなに刃物が好きなんだ?昔からそうだったのか?」
「・・・俺、実はさ、最初は冒険者になろうって考えてたんだ・・・」
「え?!冒険者?だってクリフ、冒険者は何も出来ない奴がなるって・・・」
「それは本当のことだよ。何も出来ない奴がなるけどさ、でもモンスターと戦える奴もなるんだよ。
俺の家族はモンスターに殺されたって覚えてるか?それで最初は冒険者になって、モンスターを殺してやろうって思ったんだ。
でも、モンスターがどんな生き物なのか皆に聞いてみるとさ、怖くなって、それでどうしたらいいか悩んでたら神父様が言ってくれたんだ。
直接戦わなくても、戦う人たちの手助けを出来る仕事につけばいいって・・・。それで俺は鍛冶屋になろうって決めたんだ。
正直、お前が冒険者になってモンスター退治するなんて思いもしなかったよ。デュークは凄い奴だったんだな・・・」
「お、俺は凄くないよ」
(俺は、一匹もモンスターを倒してない)
「そんな事無い。冒険者は凄いよ。俺は、モンスターを倒すなんて想像できないからな・・・。そういえば覚えてるか?ずっと冒険者になるって言って孤児院を出ていった奴、ジョニーって名前のさ。あいつ、今頃どうしてるんだろうな・・・」
「ジョニーに会った」
「ア、アデラ、急にどうしたんだ」
「ジョニー、立派な冒険者になってたよ。ゴブリンをこんなふうにね。剣で突いて倒したの。凄くカッコよくなってたよ」
「そうか・・・火付けのジョニーも立派になったんだな。裏庭でいつも木剣振ってたよな。強くなるのも当然か・・・。俺も頑張って木剣作らないと・・・」
「なあ、クリフ・・・どうして木剣を作ってるんだ?それって鍛冶屋の仕事なのか?」
「いや、鍛冶魔法のためだよ」
「鍛冶魔法?」
「魔法はイメージだからさ。イメージが下手だとまともに剣を作れないんだ。だから木剣を作って、青銅の剣を作って、他にもいろんな武器を作って、それでまともなのが一本でも出来たらさ、魔力感知の代金出してくれるって親方が言ってくれたんだ。だから木を削ってるんだよ」
「なんか大変そうだな・・・。でも、練習で作った剣ってどうなるんだ?」
「いい出来の木剣は武器屋が仕入れてくれるよ。訓練とか木剣必要だしな。結構需要があるんだ」
「そうか・・・実は俺たち今、剣の訓練しててさ。木剣2本っていくらぐらいで売ってるんだ?」
「そうだな・・・本当は武器屋との取引もあるから直接売るのは駄目なんだけどさ。まぁ、木剣2本ぐらいなら
「いいのか?」
「いいよ、それぐらい。友達だしな。木剣は1本銀貨5枚だから、金貨1枚な」
(これで俺も・・・ジョニーみたいに強く!)
木剣を買った俺たちは道具屋に向かう。
「クリフ、凄い頑張ってたな」
「ねぇ、デューク。木剣って買う必要あったの?」
「だって、訓練に必要だろ?」
「木の棒でいいんじゃないかな・・・」
「でも、孤児院でジョニーは木剣振ってたし、クリフも剣の訓練で売れるって言ってたしさ、ちゃんと訓練して強くなるには必要なんじゃないか?」
「そうだね。ジョニーも振ってたもんね」
冒険者が使う道具屋に入って商品を見ても、俺たちにはなにが必要かわからない。
だから、店員のお婆さんに聞いてみる。
「あの、すみません。一番売れてる商品ってどれですか?」
「一番売れてるのはやっぱりこれだね。痛み止めの水薬、金貨一枚だけど・・・買うのかい?」
「デューク高いよ・・・」
「でも、一番売れてるなら一番必要なんじゃないのか?痛み止めって怪我したときに使うんだろ・・・ジョニーも命は一つしか無いって言って―――」
「買おう」
「う、うん。じゃあ、1本買います」
「はい、ありがとう」
露店がたくさんある道で商品を見ていく。
こういう場所で掘り出し物があるかもしれない。
そこで俺たちは見つけた。
「あの!これっていくらですか?」
「ん?お前ら冒険者なのか?」
「はい、そうです。この鎧いくらですか?」
「金貨4枚だな」
「き、金貨4枚?!露店なのに・・・高くないですか?」
「革鎧なんて普通金貨10枚ぐらいするぞ。
これも中古だが、金貨4枚の理由はサイズが少し小さいからだ。オーダーメイドで金貨15枚で作ったとか言ってたな。店では買い取ってくれないからって露店に来たんだよ。
お前らと同じぐらいの若い奴で、金に困って売るのかと思ったら、驚いたことに
金も楽して稼げるようになったとか言ってたね。しかもソロ冒険者だぜ。世の中そういう奴もいるんだな~って感心しちまってさ。
捨ててもいいけど愛着がある、なんて言われちゃ買うしかねぇよ。状態がいいから売れると思ったんだけどな。全然売れねぇ。
男の方は体が成長したら着れなくなるだろうが、女の子なら問題ねぇだろ。どうだ、買ってくか?このサイズの中古がこの状態なんてまず無いぞ」
「そ、それじゃあ買おうかな・・・」
「駄目だよデューク」
「何が駄目なんだ?」
「もう、お金がないよ。宿代金貨4枚、ブーツ4枚、木剣1枚、痛み止め1枚。ゴブリンの報酬、金貨10枚もうないよ」
「い、いつの間に・・・」
「やっぱり買うの無理でした」
「そうか。まぁ、お買い得だが金が無いなら仕方ねぇ。全然売れねぇし、金が出来たら来いよ。売れ残ってたらそのとき買えばいいさ。この革鎧を着てた奇人のジョニーみたいに才能ある奴なんて滅多に―――」
「買います」
「ア、アデラ・・・でも、お金・・・」
「今すぐじゃないよ」
アデラが露店の人に詰め寄りながら言う。
「明日から採取依頼を受けてお金を稼ぎます。だから他の人には売らないでください」
「そ、そうか。まぁ、多分売れねぇよ」
「売らないでください」
「わ、わかった。売らない。約束する」
近くの屋台で御飯を食べて宿屋に帰る。
御飯は安いから、孤児院にいたときにお手伝いで稼いだお金で十分だった。
宿の裏、洗濯の魔法具があるスペースでアデラと一緒に木剣を振る。
お風呂に入って、アデラの部屋で一緒に訓練をして、勉強をする。
そうして挨拶をして、自分の部屋に戻ってベッドに入る。
(明日から頑張ろう)
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