060, 0-28 幕間・生意気男子の初戦

・デュークの初戦


前回のあらすじ

 殺し合いしようぜーーー



「金貨10枚の鋼の剣に銀貨2枚のナイフが付いてこのお値段っ!今ならな~~んとぉ~~~、鋼の剣をもう一本付けちゃいます。今すぐ、お越し下さい」

そんな呼び掛けで最後のゴブリン達が出てくる。

ジョニーは、ゴブリンを2匹だけ残して、そのゴブリン達からナイフを奪うと、一体を縄で縛り上げた。

「ゴブッ、ゴブー」と叫ぶゴブリン。

(なんか、ちょっと可哀想だな)

縄で縛られ叫ぶゴブリンを無視して、ジョニーはもう一体のゴブリンをアデラの元に連れて行き、怖いことを言う。

「この女がお前の敵だ。殺せたら自由だ。何処どこへなりとも行くがいい」

「ジョニー何言ってるんだよ!」

「ゴブリンに人の言葉はわからん」

(じゃあ、なんでゴブリンに話しかけたんだ・・・?)

ジョニーはやっぱり変なやつだ。


「どう倒すのかわかるか?」とジョニーが聞けば、アデラは「うん、大丈夫」と答えた。

ジョニーはゴブリンを放し、少しだけ離れて石を拾った。

「よしっ、始めろ!」

アデラがナイフを投げると、ゴブリンは倒れた。ゴブリンの目にはナイフが刺さっていた。

(アデラ、すごい・・・)

「それは、投擲とうてき用のナイフだな。技量も悪くない。練習したのか?」

「うん・・・、ずっと・・・、ずっと練習してたの・・・」


頬を染め、ジョニーを見つめながら言うアデラになんだかモヤモヤして、俺は大きな声で叫ぶ。

「つ、次は俺の番だろ、ジョニー!」

ジョニーは、縛られたゴブリンを連れてきて、縄を解きながら言う。

「この男がお前の親の仇だ。わかるか?俺は手出ししない。思う存分、殺るといい・・・」

また変なことを言うジョニー。

人の言葉はわからないはずのゴブリンは、その言葉を聞いてすごい形相でこちらを睨んでくる。

さっき可哀想だと思ったゴブリンは、恐ろしいモンスターだった。

(大丈夫だ・・・。ジョニーも・・・、アデラも倒せた・・・。俺だってやれる・・・。俺だってっ―――)



気づいたら俺は地面に倒れていて、ジョニーがゴブリンを踏みつけながら、「手出ししないと言ったが、あれは嘘だ」と言い、ナイフで目を刺した。

「お・・・、俺は・・・、一体なにが・・・」

「ゴブリンが体当りしてお前は倒れた。何が駄目だったのかわかるか?思いつく限り言ってみろ」

「えっと・・・避けなかったから、それから・・・そうだ!俺武器持ってなかった!武器を持ってればきっと倒せたはずだ!!」

「違うな」

「ち、違うって何がだよっ!」

「避けなかった、ではなく、避けられなかった、だ。武器を持っていれば倒せたのなら、何故お前は武器を持っていない」

「なぜってそれは、武器を買わなかったから・・・」

「あれを見ろ。ゴブリンが持っていたナイフだ。何故あれを拾わなかった。武器は簡単に手にできた。落ちている石を投げつけるだけでも効果はある。何故拾わなかった」

「それは、その・・・」

「倒せなかった理由は数え上げれば切りが無い。だか、駄目な理由は一つだ。ちゃんと考えなかったからだ」

「考えなかった?」

「俺がゴブリンを呼んでいる時、お前は何を考えていた。倒している時、お前は何を考えていた。

お前の仲間がナイフを使ったのを見て、ナイフを持てば倒せると何故考えなかった。

俺が石を拾ったのをお前は見ていたな。石をどう使うか考えなかったのか?

そして、何故お前は自分がゴブリンを倒せると思った。倒せない、と考えて、逃げるべきだったんじゃないか?」

「逃げるって・・・そんなカッコ悪いこと出来るわけ無いだろ!」

「つまりお前は、格好さえ良ければ死んでもいいのか」

「し、死ぬって・・・」

「モンスターと戦い、負ければ死ぬ。負けたくなければ勝つ、勝てなければ逃げる。そもそも、戦う前に勝てるか、よく考えて挑むべきだ。命は一つしか無いんだぞ。お前は一体、何を考えてゴブリンと戦ったんだ」

「お、俺は・・・アデラを守りたくて」

「死んだら守れないぞ」

「逃げたって守れないじゃないか!」

「一緒に逃げればいいじゃないか」

「一緒に逃げる?」

「一緒に行動するんだろう。勝てないモンスターとは戦うな。勝てそうになければ一緒に逃げろ。当たり前の事だ。お前は、こんな当たり前の事すら考えられないのか?」

(お、俺は・・・)

「まぁいい。戦い方を知らない新人など、お前以外にもいた。これから覚えていけばいい。本を読んでおけ。カナリッジ周辺のモンスターについて載っている」

「俺・・・、字が読めないんだ・・・」

「孤児院で勉強しなかったのか?」

「みんな勉強しないって言うから、勉強しなかったんだ」


俺がそう答えると、アデラが驚くことを言った。

「みんな、お勉強してたよ?」

「え!?」

「みんな、ちゃんとお勉強してたよ。私も、みんなと一緒にお勉強して、字の読み書きが出来るようになったの」

「そ、そんな・・・」


「まぁ、あれだ、そういう事もある。そういうものだ。俺が剣術を少し教えてやろう。読み書きは、仲間に教えてもらえ」

ジョニーは、すごく優しい声で言った。



俺の初めての戦いは、何一ついいところ無く、終わった・・・。

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