054, 3-08 冒険者としての日々

前回のあらすじ

 宿屋の母娘がいい感じだ



あれから・・・、何度か適当な依頼をこなし、サイズが小さい中古の革鎧、規格統一されたナイフやホルダーベルトを買い、ナイフ投げの練習もする。

俺は、この世界の人間とは価値観が違うので、ソロ冒険者としてやっていく事にした。

度々、毒舌プリーストに絡まれるが、五月蝿うるさいだけで特に害はない。

そして、今日はダンジョンだ。


ダンジョン前では水薬が売られている。

これはポーションではない。痛み止めだ。



魔法が使えれば、自己回復魔法は誰でも使える。上手い下手はあっても、普段の自分をイメージするだけだ。

しかし、「痛みに苦しみながらちゃんとイメージ出来るか?」と言われたら、また別の話だ。

骨折ぐらいなら時間を掛けてもいいが、四肢の欠損とかだと大量出血で死ぬ。

親切爺は、ダンジョンの上級階層にいるモンスターに足を食い千切られて、ハンマーでモンスターをぶっ殺し、適当に止血して気合で直したそうだ。化け物だ。

俺が足を失ったら絶対に痛み止めがいる。

足や手が切断されても、高位の回復魔法使いならくっつけることも可能らしい。くっつけるだけで、手足を生やすなんてことは出来ない。


ポーションが普人の国にない理由は単純に、多くの普人が他者の魔力を取り込めないからだ。

エルフの国にはポーションがあるらしい。回復の補助とか魔力補充とか出来る、魔法薬だ。



痛み止めは金貨1枚。一月ほど保存がく。怪我をする気はないが、念の為に買っておく。



ダンジョンの階段を1メートルほど降りると、天井の高さが5メートルぐらいの通路に出る。やはり別空間のようだ。

通路幅は3メートルぐらいだ。結構自由に戦える。

壁や床は薄いクリーム色で、街壁や街道に似ている。というか、この壁を真似て街壁なんかを作っているのだろう。


地下1~3階が低級階層、地下4~6階が中級階層、地下7~9階が上級階層だ。

地下に行くのに上級となんだかややこしいが、冒険者ランクに合わせている。


カナリッジ近くのダンジョンは、カナリッジ迷宮ダンジョンと呼ばれている。昔は、ヘブリッジ迷宮ダンジョンと呼ばれていた。

攻略済みなので、モンスターは溢れてこない。

しかし、モンスターは湧く。壁や床なんかにも神力が宿っているらしい。

罠は発動しないが、宝箱は出る。かなりお得だ。

宝箱からは、金貨10枚でギルドが引き取ってくれる魔石や、各種武器が出る。防具は出ない。

武器は、魔法武器とかではない。鋼の剣とかだ。

「神の武器とか手に入らないのか?」と最初は思ったが、ダンジョンは遊び場だ。モグラ叩きに本物のハンマー持ち出す奴はいないだろう。・・・世の中広いからいるかも知れないが。

たまに、金や銀製の武器とかも出るらしい。

エッチな湖の女神様はいないのだろうか。

「あなたが落としたのは金の剣ですか?銀の剣ですか?正直者のあなたには、エッチなサービスをしてあげましょう」とか言ってくれないだろうか。

俺は常識人だ。流石にダンジョンの中で妄想はしない。

数百年前にはミスリル製の武器が出た事もある。

たぶん、「キラキラ光ってカッコいい」とか、そういう遊び心だ。

宝箱は、触れると煙が出てアイテムに変わる、というゲームみたいな仕様・・・レベルを導入してくれ。


攻略済みダンジョンの上級階層は、ボスモンスターが討伐され、ダンジョンコアもない。

だが、モンスターはいなくならない。管理者がいない上級階層は、モンスターが蠱毒こどくのように融合し、変なモンスター達の棲家すみかになっているとか。

親切爺は入った途端に足食い千切られたらしいので、俺は絶対に入らない。



少し進むと広い部屋に出る。そこにはスライムが二匹いた。

俺は近づき、剣先でサッと斬る。

体液が溢れ出し、スライムは死ぬ。

俺は、消える水の魔法を生み出して、すぐに剣先を洗い、ボロ布で油を塗る。

宿に帰ったら、研磨魔法も使う。



スライムは、弱いが面倒なモンスターだ。

スライムの体液は酸性だ。鉄がすぐ溶ける程の濃度ではないが、剣に付くと切れ味が悪くなる。

スライムの攻撃手段は体当たりだけで、酸を吐いたりはしない。

打撃に強いが、斬撃や火に弱い。

魔石は1個銀貨3枚、スライムの皮も銀貨2枚でギルドが引き取ってくれる。皮は防水性の袋や手袋に加工される。

結構な儲けだが、剣の手入れをちゃんとしないと、金貨5枚稼いで、金貨10枚の剣を失う、なんて馬鹿げた話になる。

新人は松明たいまつを押し付けて倒すが、この方法だと皮が駄目になる。

中級冒険者ぐらいになると相手にせず、蹴り飛ばしてそのまま進む。

中級階層には、攻撃魔法を使ってくる属性スライムもいるらしい。そいつらはちょっと強い。



魔石や皮を回収し、魔力波魔法を使う。


ダンジョンの部屋には、通路が複数あり、別の部屋に通じている。カナリッジ迷宮ダンジョンは、入り口の階段から真っすぐ進むと、迷うこと無く次の階層に行ける。迷宮と呼べるのか・・・。

ランダムで隠し通路が作られ、そこに宝箱がある。

低級階層には滅多に出現しない。中級や上級になるほど宝箱の出現率は高くなる。

普通は、パーティの斥候職が壁に耳を当て探り出すそうだが、俺はソロ冒険者、全部一人でやる。

この魔力波魔法、最初は「音波で物を見つけるソナー魔法」と考えたが、「わざわざ音に変換する意味ないな」と魔力を飛ばしている。

魔力を飛ばすので、魔力消費がある。一日の自然回復量を考え、5回が使用制限だ。


結局宝箱は見つからず、その後も何匹かスライムを倒して帰る。



そうして・・・、日々依頼をこなし、金を稼ぎ、魔法の袋や新品の革鎧を買い、毒舌プリーストに付きまとわれ、男性受付が体を壊して退職したのでお見舞いに行き、コネ採用のギャルはスタンプしか押せないので、夕方にギルマスが受付を担当するようになった頃、俺は14歳でDランクの中級下位冒険者になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る