051, 3-05 毒を吐く少女

前回のあらすじ

 異世界転生者か?!



森に入る前に、集音の魔法を使う。

ただ、なんとなく、周囲の音をよく聞きたい、とイメージするだけの魔法だ。

単純な魔法だが、最初は鼓膜が破れそうになった。

今では、ちょっとよく聞こえる、という程度に調整している。

魔法の同時使用は集中力に影響するので身体強化の持続時間は減ってしまうが、森の中では警戒したい。

この魔法も身体強化と同じで耳の側に魔力をまとっているだけなので、魔力消費は殆ど無い。

この世界の魔法で唯一の利点と言える。



森に入り少し歩くと、盾ファットが薬草など売れる植物なんかを解説し始めた。

俺は、図書室の本で読んで知っているのだが、前世日本人として身につけた空気を読むエアーリーディング能力のおかげで、知らないていで感心しながら、盾ファットの話を聞く。

もしかしたら、本に載ってない知識も身につけられるかもしれない。

しかし、ツルペタ少女がそれをぶち壊す。

さっきまで大人しかった引っ込み思案の少女は、テンション高めに「知ってます。それも知ってます」と、盾ファットの話の腰を折る。

盾ファットの機嫌が少し悪くなっているが、ツルペタ少女はそれに気づかない。

そんな時、小型モンスターが向かってきたので、適当に剣で払い殺す。

それを見た盾ファットが「俺は必要なさそうだな」と悲しそうに言い、先を歩いていた、のっぽソードの元へ行ってしまった。

俺はもっと、盾ファットの話を聞きたかったんだがな・・・。


ツルペタ少女が、どこで剣術を習ったのか聞いてきたので、暇だし、開拓村から孤児院までの話をしてやる。

この少女も孤児だ。不幸自慢にはならないだろう。



ゴブリンの洞窟にたどり着く。

洞窟周辺の木は伐採されている。

俺は、洞窟の入口で、拳を天に掲げて叫ぶ。

「ゴブリンだ!ゴブリン退治だ!!」

光球の魔法を生み出し、辺りを照らしながら走り、洞窟に入る。



魔法は最初のイメージが大事で、一度生み出した魔法に影響を与えるには、魔力を消費する。

水を魔法を生み出したら、それはただの水だ。魔法使いの影響下にはないので、自由自在に動かしたり、消すとか出来ない。

水を消す魔法を使えば消える。この時、当然魔力を消費する。

だが最初に、一定の時間経過で消える水、とイメージしてやれば、消える水ができる。掃除の時とか便利だ。

土や水は魔法で生み出しても消えないが、炎や光は魔力によって持続時間が変わってくる。

燃える、光る、という現象を維持するのに魔力消費するんだろう。

光球の魔法も、一定の速度で前に飛ぶ光の玉、をイメージしているので、それに合わせて走る。

「手にくっつけて懐中電灯みたいにするかな」と思った事もあるが、手が塞がるのは避けたい。

何かもっと、うまい方法を考えよう。



少し走ると、道が左右に分かれる。

本に載っていた通りなら、右は行き止まり、左はちょっと広い空間で、そこにゴブリンがいるはずだ。

光球の魔法を魔力で操作し、左に曲がり進むと、広い空間に30匹ぐらいのゴブリンがいた。全員寝ている。

別にそのままぶっ殺してもいいんだが、俺は戦いたい。

光球の魔法を6つ浮かべ、光源を確保し、「おい、起きろ」と呼びかける。

目をこすり、やる気なさそうに起きるゴブリン達。

「ゴブゴブ?」「ゴブゴブ、ゴブッ」と会話をしている。

「こっちだぞ」と声をかけてやると、やっと武器を持ち、向かってくる。武器はナイフだ。

向かって来たゴブリンの目を刺し、殺していく。戦いというより、作業だ。

首をぶった切ってもいいが、剣が傷む。

30匹ほどいたゴブリンは、特に何ら工夫をすることもなく向かってきて、全滅した。

ゴブリンはあまり血が出ない生き物だが、剣が少し汚れている。魔法の水で洗い、浄化の魔法もかけておく。剣の手入れも学ぶ必要があるな。

俺は無傷だ。さすが異世界転生者、俺強えぇ!である。・・・そうでもないか。



この世界のゴブリンは、馬鹿だ。

ファンタジー作品に出てくるゴブリンも、大抵馬鹿という設定だが、見張りを立てたり、巧妙な罠を仕掛けたり、武器を作ったり、人間の心理を利用したり、国を作って戦争仕掛けてきたり、「どこが馬鹿なんだ?むしろ頭いいだろ」という奴らばかりだが、この世界のゴブリンは本当に馬鹿だ。

見張りもいないし、皆寝ていた。武器のナイフも、狩人や冒険者の死体などから回収したんだろう。

多種族のメスをさらい繁殖するのは同じだが、この洞窟のゴブリンは管理されている。

洞窟周辺の木は伐採されていたが、あれは冒険者が冒険者ギルドの依頼を受けてやっている。

洞窟内の広場には木箱があり、ゴブリン用の物資が入っている。ゴブリンが住みやすいように、と用意されている。

理由は単純に、ゴブリン退治をしやすくするためだ。

ゴブリンは30匹ぐらいが一つの群れで、それ以上増えると群れが分かれる。

森の奥からやって来たゴブリンの群れが、この洞窟を見つけてくれれば、周辺への被害はない。

俺は30匹のゴブリンを作業のように倒したが、身体強化が使え、剣術の訓練をしていたから出来たことだ。

ゴブリンの身長は約1メートル、体は小さいが常に身体強化を使っており、普人の男ぐらい力は強い。

魔法を使えない、戦い方を知らない普人の男が、30匹のゴブリンに囲まれたら普通に殺されるし、女ならさらわれる。さらい方もひどく、縄で縛るなんてことはしない。手足の骨を折って動けなくしてさらう。そして延々子供を産まされる。

馬鹿だが、危険なモンスターだ。

しかし、ダンジョンのモンスターが外で繁殖して増えたモンスターなので、魔石の魔力内包量は多く、そこそこの値段で売れる。

ダンジョンにもゴブリンは出るが、30匹見つけるのは大変だ。ダンジョン外にいるモンスターを大量に倒すと、報酬で少し色を付けてもらえる。

新人としては、これほど美味しい依頼はない。新人が依頼掲示板でこれを見つけたら、とりあえず手に取るべきだ。

まぁ、安全に倒せる力量があるのが前提条件だが・・・。



俺が、俺強えぇ!気分に浸っていると、ツルペタ少女達がやって来た。残念ながらゴブリン退治は終わっているが、魔石回収がある。そっちで学んでもらいたい。

だがツルペタ少女は気に入らないようで毒を吐いてくる。

「ちょっと、何勝手に飛び出してるのよ危ないでしょ!」

「いや、ゴブリンぐらい倒せるから・・・」

「倒せればいいってものじゃないでしょ!」

「いや、倒せればいいんじゃ・・・」

「いいわけないでしょ!大体、私の出番ないじゃない!支援魔法とか・・・私の出番ないじゃない!どうするのよ、反省しなさい!!」

最初は心配してくれたのかと思ったが、すごい毒を吐いてくる。ツルペタ少女改め、毒舌プリーストだな。

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