28,冬をあきらめたくない!

 乱暴に頭を洗い、シャンプーを熱めのシャワーで流したら、コンディショナーを塗りたくる。シャワーを当ててもなかなか流れないそれは、私の思考や焦燥を一時的に止めた。


 潮まじりの乾燥した空気で傷んだ髪が潤いを取り戻し、しっとりしてきた。


 温水シャワーを浴びながら瞼を閉じて、湯気ともいえぬ気化していない無数の水滴が漂う頭上を心の目で仰ぐと、他の生徒が通路できゃっきゃとはしゃぐ声が耳に入る。


 その音響を水滴がまるくして、ふわふわ拡散していった。


 やっぱり渡さないと、後悔するよな。


 チョコを渡した場合と、渡さなかった場合の今夜の自分を想像してみる。


 渡した自分はきっと、胸の中が荒野のように焼け、新芽を待つだろう。


 渡さなかった自分はモヤが取れぬまま、この鈍色でずんと重たい感情がどんどん積もって、恋患こいわずらいはがんとなる。


 だから、渡すが正解。


 わかってる。わかってるんだけどなぁ……!


「あぁもう!」


 思わず心の声を漏らすと「え、誰か何か言った?」と通路ではしゃぐ生徒が空間に問うた。


 あ、やっちゃった……。


 誰かもわからない相手に、私は返事をできない。沙希なら「はーい私でーす!」なんてシャワーカーテンを開けてすっぽんぽんのまま名乗り出そうだけど、私にはそれができない。


 やっぱりこういうとこだよな、私に足りないのは。


 本当に大切なことに、素直な自分でありたい。沙希みたいに。


 でも私は、夏は諦めたけど、この冬を諦めたくない。

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