第158話 拒めない想い

「きゃっ!」


 マーガレットは抱き締めながら家の中へと押し込まれ、乱暴にも寝室のベットへと投げ出されてしまい、小さな悲鳴を上げてしまう。

 だがそれも倒れた先が柔らかいベットであったため、彼女の身体が怪我するようなことはなかった。


「でゅ、デュラン。貴方、本当にこのまま私とするつもりなの?」

「なんだ、不満なのか? 以前はそれこそ、朝日が昇るまで愛し合っていただろ?」

「そ、それは数年も前のことでしょ? それに今は……」

「ああ、そうさ。だがな、マーガレットにとっては数年前のことで、今ではもう過去にすぎないかもしれない。だがな、俺からしてみれば、つい昨夜にあった出来事のようにさえ思える。それだけキミへの想いを忘れられないんだぞ、だからその責任……とってくれるだろ?」


 デュランはそう口にしながらもジュストコール(コート)などの上着を脱ぎさり、白シャツ姿になっていた。これから彼女のことを愛する行為を行うため、既に上前ボタンが三つ四つほど外されており、彼の胸板がチラチラと顔を覗かせていた。


 対してベット上にいるマーガレットは夜も遅く寝間着ねまき姿のため、着ていた服はいつもの肌を隠している普段着のそれとは違い、まるでネグリジェのように薄く透明なもの。一応部屋の外に出ることもあってか、薄手のコートを羽織ってはいたが、そんなものは既にデュランの手によって取り払われていた。


 そして少しでも彼に肌を見せないようにと胸元やスカート丈を抑え隠し、必死に身体を後退させながら彼の手から逃れようとしていた。


「あっ」


 だが背中にヘッドボードがぶつかってしまい、反射的に後ろを振り返ると壁があるのでそれ以上彼女は後ろへと逃れることはできなかった。また彼のほうが部屋のドアに近いため、横を通り過ぎて逃げられそうも無い状況である。


「ちゅっ」

「んんっ!?」


 そして前を振り向いたその瞬間、デュランの唇が彼女の唇へと吸い付いていた。マーガレットは突然に彼から強引なまでの口付けをされてしまう。ベット上に置いておいた手の上へと彼の手が重ね合わさり、一切抵抗することができなかった。


「んんっ」

「ふふっ」


 上からデュランが彼女の体へと覆い被さる形で上乗りにされているため、また口付けをしているために彼の唾液が重力に従い彼女の口の中へと流し込まれてしまう。それに抗うことができないマーガレットは、喉を元を通り過ぎる彼の熱を受け入れるほかなかった。


 本来ならばその強引なまでの彼の行為を本気で嫌がるはずなのだが、彼と昔交わしていた情事のことを思い出してしまい、彼女自身嫌だという感情どころか、むしろ身体が喜んでしまっていたのだ。


(ああ、ほんとデュランは昔から強引なんだから。でもそれなのに少しも嫌だなんてことを感じさせないわね。このまま彼の優しさに溺れてしまいそうになってしまうわ……)


 実際、両手を重ね合わせられて身動きはできなかったが、不思議と痛みを感じることはなかったのだ。それがデュランから彼女へと向けた嫌がることはしないとの意思表示でもあり、心配りでもあったわけだ。


「ちゅ。こうして上からマーガレットのことを見下ろしていると、なんだか初めてキスしたときのことを思い出すな」

「っ。そう……ね。あのとき私達も、今と同じような格好でしていたわよね。それに貴方の押しの強さは、昔とちっとも変わっていないようね。それでいて、決して女性が嫌がるようなことは絶対にしようとはしない。ズルイわよ、こんなの……拒めるわけないじゃないの」


 デュランが唇から離れるとマーガレットは彼から見下ろされる形で、見上げながらにそんなこと口にする。彼女自身、彼からこうして愛してもらえることが何よりも嬉しくて堪らなかったのだ。だがそれでも、運命という歯車が度重なる不運によって狂い出してしまい、結局彼と歩むばずだった人生計画までをも台無しにされてしまったのだ。


 つい先日、ルイスから婚姻を迫られてしまった時には一度ならず二度目までも、彼の人生と交わるはずだったのに……それなのにいつも何かによって阻まれてしまう。そして自分とデュランとは、決して結ばれることのない運命であると諦めかけ、ルイスの申し出を飲んでしまった。


 だがそれも、彼がこうして自分の身を案じて夜中でも会いに来てくれただけじゃなく数年間という月日を経てなお、自分のことを今でもこうして激しく愛してくれる。これが女として喜ばずしてなんというのだろうか?


(それもいいかしら……ね? ルインに言われたときはただ意地を張っていたけど、私だって本当は何もかもを捨て去り、デュランと添い遂げたかったのよ。それでも彼のことを守るため、手放し諦めたというのにこんなことされてしまったら……もう元には戻れなくなってしまうわ)


 マーガレットはこのまま雰囲気に流され、彼の想いに応えてしまいそうになってしまう。


「ちゅ、ちゅ……」

「んんっ!? んっ……」


 そんなことを考えていると突然、彼から左の首筋へと軽い口付けを何度もされてしまう。それは彼が自分のことを愛してくれる前準備の行為であった。

 こうしてまず初めに口付けから始まり、ゆっくりと時間をかけて自分のものになるようにと相手の気分を高めてから心と身体を支配していく。それこそが彼の異性に対する愛し方だったのだ。

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