はじける
手の先で、オレンジ色の小さな火が弾けている。
パチパチパチ、と消え入りそうな音に、そうか、線香花火ってこんなに小さい音だったか、と思い出す。
住宅街の公園の夜は、意外と静かではない。周りではしゃぐ友人たちの声もそうだし、夏だから蝉の声や、コオロギか何かの涼しげな音色にも包まれている。だから、線香花火の音なんて、ちゃんと耳をすませないと聞こえない。
「あっ」
火の玉がぽとっと落ちる。燃えるのはちょっとずつなのに、落ちるときの速さは一瞬だ。地面の上で少しずつ色を無くしていく玉を見て、俺は新しい線香花火をロウソクに近づける。
と、横からもう一つの手が現れる。小さくて白い、女の子の手だ。
彼女の口が、ありがとね、と動く。
だけど、姿がぼんやりしている。誰だろう。
相手の正体もわからずに、俺はそいつと向き合って線香花火をする。自分が何かを話している気がする。そこでようやく、これって夢かな、と気付く。
お互いの会話の内容が情報として頭に入ってこない。それなのに、自分は今、やけに楽しさを感じている。そして、どこか懐かしい。
再び俺の玉が落ちて、二人で笑い合う。相手の玉は全然落ちる気配を見せない。何かコツでもあるんだろうか。次に火を点けたら聞いてみよう、そう思った。
新しい線香花火を手にロウソクを見ると、いつの間にか燃え上がり方がやけに激しくなっている。首を傾げると、それはロウソクではないことに気付いた。
その瞬間、視界が白くスパークし、暴風が体を吹き飛ばして――。
あーなんだよ今の、と思いながら目が覚めた。冷静な頭と裏腹に、頭も背中も汗だらけで、掛け布団の上に一つ水滴が落ちた。
部屋の空気が悪いせいだ、とカーテンを開けようとして、ふとバランスを崩した。壁に手をつきながら、何やってんだ、と呟いて、今度こそカーテンを開く。
網戸を通して、秋の朝の涼しい風を顔に感じる。朝焼け空が広がり、マンションの五階からは黄金色に染まる住宅街が見える。悪夢の余韻が似つかわしくない、優しい景色だ。
三、二、一、ジャーン、と勢いを付けて立ち上がろうとする。またバランスを崩しかけて、よっ、とベッドの上でホップして姿勢を整える。
六畳ほどの部屋には、プリントや漫画や雑誌がばらまかれていて、背後の窓からの光が壁まで伸びるようにして線を描いている。ドアの横にはサッカー選手のポスターが何枚かあって、そこには光はギリギリ届いていない。その上にある、中学や高校の部活の集合写真にも、もちろん光は届かない。
何かが終わった次の朝って、こんな感じなのかな。
パン、と両頬を叩く。縁起でもない発想をふっ飛ばして、朝練の準備を始めることにした。
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