上機嫌
物理実験室で私はスコアを読み続ける。おたまじゃくしが頭の中で音の粒に変わって、私は鼻歌でそれを再生する。
「奈穂、今日も早いね。ちゃんとクラスの掃除当番してる?」
空いていたドアから杏が姿を見せた。いつものように、入ってすぐ右側の位置に楽器ケースと鞄を置いて陣取る。廊下では一年生の男子生徒がふざけながら箒を動かしていて、眼鏡の女の子が困った顔で窓を拭いている。
「杏こそ、ちゃんと手伝ってるの?」
「私は部長と生徒会で忙しいと思ってもらってる」
「それなら、私だって指揮者だから、以下同文」
ずるいよとお互いに笑い合う。彼女はマウスピースを取り出して、口に当てようとして、私を怪訝そうに見つめてくる。
「どうしたの?」
「いや、今日の奈穂気分良さそうだなって」
告白でもされた? と杏が眼鏡の下でニヤリ笑うので、まさか、と曖昧に笑って誤魔化しておいた。
聞いて、私、魔法使いになれるんだよ!
ダメだ、相当変な子だと思われる。あるいはスコアの読みすぎで頭がおかしくなったと思われるかもしれない。口止めされているから、どのみち言わないけど。
「そういや、アンコール曲、どうなってるの」
私は、あっ、と声に出した。
「二週間切ったからさ、いい加減決めないと。大丈夫なの?」
「うん、大丈夫大丈夫」
絶対信用してもらえないだろうな、と思いながら返事すると、全く信用する気のない冷めた目線を投げかけられた。そのタイミングで、合唱部の部長さんが入ってきてくれて、助かった。
「山岸さん。今日、うちの顧問休みだから、音楽室使っていいよ」
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