屋上
四階の音楽室に向かおうと階段を上っていたら、上の方から何か重たい物どうしがぶつかる音がした。真上の方から聞こえたけれど、この真上は行き止まりのはず。正確には屋上へのドアがあるはずだけど、危ないから閉められていたはずだ。
ふわっとした気分だったから、つい、何が起こったのか確かめてみたくなった。軽い足取りで上っていき、四階の踊り場に着くと、吹き下ろす風が私の髪やスカートをはためかせる。
屋上へのドアが、開いている。
つばをごくりと飲み込んで、私は一段ずつ上っていく。逆光なのか、ドアの向こうはよく見えない。
真ん中辺りから、私は思い切って駆け上がった。光が近づき、一番上段に足が達する。
ドアの前に立つと、私は、ドキッとした。
屋上は、きっとドラマとかでよくあるような、フェンスで囲まれ室外機とかが置かれた何の変哲もなさそうな場所だと思っていた。その上には、まだ寒さを残した三月の青空が広がっていると思っていた。
だけど実際、今、私の目の前に広がるのは古めかしい雰囲気の部屋で、しかも二人の男の子がダークブラウンのソファに座ってこちらを見ていたのだ。
背が低い方の男の子が、ちょいちょい、と手招きしている。私は吸い寄せられるように、扉を閉めて中に入る。
部屋の中は、八畳くらいでとても簡素な空間だった。
湿気で腐食の進んでいる木目調の壁には、左右に窓があって、奥には窓付きのドアがあって、外にはよく見るような、つまり私が予想していたような屋上の殺風景な景色が広がっている。
右側には食器やレトロな砂時計の置かれた戸棚があり、左側の本棚にはたくさんの青いファイルが入っているけど、だいたいが埃をかぶっている。背表紙に年月日が書いていたりして、何かの古い資料だろうか、と思った。
「さあ、お座りください」
背の低い彼は、可愛い感じの美少年で、落ち着きのある優しい声だった。促されるままソファに座って、背の高い、厚い唇と浅黒い肌が印象的なもう一人の男の子と会釈を交わした。
「あの、ここ、なんなんですか」
落ち着いた色合いの部屋との対比で、窓の外に見える校舎の白い色や青空が目にまぶしい。明らかに、屋上にあるべき空間ではない。
「あなたは選ばれたのですよ、
「え、どうして名前を」
「それは秘密です。
「はい」と言って、誉田くんと呼ばれた男の子は本棚からファイルを取り出し、パラパラとめくり始めた。彼は助手のような役回りなのだろうか。その間に、すきま風の唸る音と混じらせながら、背の低い男の子は話し続ける。
「
「魔法?」
指揮棒を巧みに操る先輩の姿を思い出す。私が、魔法?
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