第63話 絶対に負けない

「アーーソウソウ。ソウナノヨ」


 ローズはバカシャルロッテの勘違いに乗る判断を下した、秒で。

 少し呆れる気持ちが大きかったので若干棒読みになってしまったが、十分効果は有ったようでローズの話を信じたシャルロッテは口に手を当てて「なんて事……」とショックを受けていた。

 『やっぱりバカな子だわ』と思いながらも、取りあえず信じてくれているようなので口止めを含めどう説得しようかと、ローズは考える。


 とは言え、実際のところ『記憶喪失』は当たらずとも遠からず、あながち間違いではないと言えるかも知れないと、ローズは思った。

 この世界がゲームと知っているローズの中の人である野江 水流としては違う事は分かっているのだが、確かにローズとしての記憶をゲームに出てくる描写以外の事は一切知らない。

 いや、知らなかった。

 この屋敷に来てから、不思議な事に何度かローズの過去の記憶を垣間見たのだ。

 ポツリと零した独り言の通り、野江 水流としての意識が目覚める前の記憶はリセットされた訳ではなく、自分の内に眠ったままなのかもしれない。

 この世界に来てから約一か月、もしかするとローズとしての意識が目覚めようとしているのか?

 それが今後どう言う意味を持つのかは野江 水流としても分からない。

 過去のローズとしての意識が目覚める事で、野江 水流として目覚めた今の意識がまた眠ってしまう事だって考えられると、ローズは少し背筋に冷たいモノが走るのを感じたが、その考えを空元気で無理矢理吹き飛ばす。


 『そんな事は後にしましょう。今目の前のシャルロッテをどうにかしないとゲームオーバーだわ。しかし確かに記憶喪失ってのは言い得て妙って奴かもしれない。その話に乗るのは名案なんだけど、他の人との辻褄が合わなくなっちゃうか。う~ん、何とか彼女の中だけの話に出来ないかな~?』


 シャルロッテとローズは犬猿の仲であるライバル関係。

 これを気に一気にライバルを追い落とそうとしてもおかしくない。

 口止め作戦を成功させるには、まずライバル関係の解消、すなわち仲直りが必要となる。

 それを達成しない限り、相手に弱みを握られる事になってしまう。

 それだけは避けたい。

 なんとか味方に引き入れる事が出来たら良いのにと、ローズは良い案が無いかと頭を捻った。


「あ、あの……「大丈夫なの! ローズ!!」うわっ!」


 取りあえず、まずは話し合いと口を開いた途端、それに被せる様にシャルロッテがすごい勢いで迫って来て両肩を掴んだと思ったら思いっきり揺さぶってくる。

 ぐるんぐるん頭を振られて少々気持ち悪い。


「だからそんな態度を取っていたのね。どうして記憶を失くしたの? 頭を打ったの? 傷は大丈夫?」


 シャルロッテはローズの身体を揺さぶりながら、必死の表情で回答する隙も無い程の質問を連続して投げかける。


 『ちょ、ちょっと、この子何なのよ~。うっぷ、ちょっと酔って来たわ。き、きもちわるい。今が一番大丈夫じゃないかも……』


 およそ仇敵に対する言葉とは思えない質問と表情にローズは困惑した。

 そう言えばと、さっきもシャルロッテが変な事を言っていたのを思い出す。


 『う~ん、う~ん。なんか考えたくないんだけど、もしかしてこの子……』


 高校時代の悲しくも嫌な記憶。

 先輩と級友の事を思い出した。

 『いやいやいや、まだだ。まだ焦る時間じゃない』と、本日二度目のフレーズで辿り着きそうになった結論を否定する。

 現ローズの中の人である野江 水流は人からの好意に鈍い。

 他の女生徒から、級友が先輩に向けた物と同じ友情を超えたドロッとした好意を投げ掛けられても気付かなかった。

 しかしながら、現在は過去のローズとシャルロッテの関係を客観視して攻略法を探っていた手前、恋愛マスターとしてのアンテナがビンビンと反応してしまっていたのだ。


「ハッ! 私なんて事を……。記憶が無いのにあんな事をしてごめんなさい! ごめんなさい……うぅ」


 シャルロッテは勝手に話を完結して手を止め、目に涙を溜めて必死に謝罪する。

 揺さぶられるのが止まって、何とか酔いから復帰して気を取り直したローズは少し遠い目をしながら、他人事の様にその謝罪の声を聴いていた。


 『どうしたものかしらね~。勝手に解釈して妄想を発展させてくれるのは良いんだけど、これに素直に乗って良いのか正直悩む所だわ。しっかし、この態度。噂の悪役令嬢は何処へ行ったのよ。……もしかしたら、これがこの子の素で、大好きなローズに少しでも近付く為に、ローズの真似をして悪役令嬢をしていたのかもしれないわね』


 そう思った瞬間、ズキンと頭に痛みが走った。

 それは、舞台の壇上で見た白昼夢。

 その中で、幼いローズは亡き母に少しでも近付く為に強くなろうと決意した。

 小さく健気な決意は大きく道を踏み外してしまったが、始まりは純粋な想いだったのだ。

 ローズは目の前で自らの行いに反省し謝罪しているシャルロッテに、過去のローズが道を踏み外して悪役令嬢になってしまった姿が重なって見えた。


 『ふぅ、仕方ない……か。この子はローズの所為で道を踏み外した被害者だもん。オーディック様のお父さんもこれ以上悪さをしたら法の裁きが下るとか物騒な事を言っていたし、この子も例外じゃないと思う。その前に正しい道に戻してあげないとね。……後はこのゲームに百合ルートなんてものが無い事を祈るしかないわ。はははは……』


 ローズは心の中で乾いた笑い声を出しながら、目の前のシャルロッテを慈愛の表情で見詰めた。

 すると、シャルロッテは泣くのを止めて驚きの表情でポッと頬を赤く染める。

 完全に恋する乙女の顔になっているシャルロッテ。

 ローズは『あっ、これあかんやつや』と、浮かべる表情のチョイスをミスった事に後悔しながらも、今更表情を変えるのもおかしいので、泣く泣くそのまま説得を強行する事にした。


「いいのよシャルロッテ。もう終わった事ですから、許すも何もないわ。それになにより貴女は知らなかったんですもの、あなたに罪は無いの。だから泣かないで」


 心の中で『これも言葉のチョイスをしくじったかな~?』と思いながら慈愛の表情を少しヒクヒクさせてシャルロッテに語り掛ける。

 ローズ自身気付いていないが、現在のローズは恋愛マスターアンテナが働いている為、普段のリーダーとしての仲直りテクニックではなく、恋愛マスターとして他者に恋のアドバイスしていた時に施していた恋愛成就テクニックを無意識に使ってしまっていた。

 げに恐ろしきは客観視。

 その言葉を聞いたシャルロッテは、ぶわっと大粒の涙を零し顔をくしゃくしゃにしながらローズに抱きついて来た。


「ローズ! 大好きーーー!」


 シャルロッテは抱きつくや否やとんでもない事を口走りそのローズを抱きしめる手に力を入れる。

 そして抱きつきながら「嬉しい嬉しい」と、喜びの言葉を連呼した。

 ローズは『ろ、ローズ『ちゃん』? あぁなんかもう完全にアウトだわ。……あれれ~? もっと熱い友情って感じで治まる筈だったのに、どうしてこうなったの?』と、抱きついて泣きながら頬をスリスリと擦り付けて来るシャルロッテに現実逃避して遠くを見ていた。

 その視線の先に在るのはトイレの壁だが、意識的には三千世界のそのまた向こうを眺めるそんな感じ。


 そんな中、ふと背後から視線を感じ羽交い絞めされている身体を少し捻って、そちらの方に顔を向ける。

 そこには少し開いたトイレの扉から覗く口に手を当て頬を染めた女性衛兵の顔が有った。

 おそらく先程の衛兵が女性ならば良いだろうと呼びに行ったのだろう。

 『くそっ! あの衛兵め~! 余計な事をしやがって!』と、ローズは心の中で先程の衛兵に呪いの言葉を唱えた。

 目が合った瞬間、その女性衛兵は「あっ、何も見てませんから、ごゆっくり~」と、何故か良い笑顔を浮かべながら扉を閉める。


「ちょっ! ちょっと待って! ご、誤解だからーーー!」


 急いで声を掛けたが、時既に遅し。

 女性衛兵の遠ざかる足音が聞こえる。


「シャルロッテ? ほら放して? お願いだから。ね?」


 誤解を解く為に追いかけようとするが、抱きついてるシャルロッテが邪魔で身動き出来ない。

 力を込めて払い除ければシャルロッテを剥せるだろうが、そうすると怪我をさせてしまうだろう。

 ローズは何とか自分から離れて貰おうと説得するが、ふとシャルロッテの言葉の中に気になる言葉が有る事に気付いた。


「昔のローズちゃんが帰って来た~。えへへへ~」


「え? 今なんて言ったの? 昔のローズってどう言う意味?」


 シャルロッテに今の言葉の意味を尋ねると、シャルロッテは頬をスリスリするのを止めて少し離れる。

 そして、少し伏目がちに顔を俯け語り出した。


「うん、昔のローズちゃん。……あのね、昔のローズちゃんはとっても優しかった。今のローズちゃんの様に。でも、ローズちゃんのお母様であるアンネリーゼ様が亡くなってから変わってしまったの。私の事も無視する様になって……。だけど喧嘩する時だけは相手にしてくれた。だからローズちゃんを真似て少しでも対等に見て貰おう思って、それで……」


「……そうだったのね。ごめんなさい」


 ローズは悲しそうな表情でそう語ったシャルロッテに謝罪した。

 およそ想像通りの彼女の顛末に納得するも、心の中では『重い重い! とっても重いわ。この子ってば方向性が違うけど級友にそっくりね!』と背筋がゾワゾワするのを必死で耐えていたりする。


「あの……、本当に全部忘れちゃったの? 私の事も……?」


 瞳を潤ませながら切なそうな表情で、ローズにそう問いかけて来るシャルロッテ。

 ローズは『その表情は止めて! 私はノーマルだから!』と、心の中で訴えながらもなんだか話が纏まりそうなので、覚悟を決めて口止めさせる為の作戦を考える。

 何よりもう二人きりは勘弁して欲しいので、早く皆の元に戻りたい。


「ううん。全部って訳じゃないのよ。最近の事ならいくつか覚えている事も有るわ。けど、昔の事は殆ど思い出せない。だから貴女の事も……、ごめんなさい」


 自分の事を覚えていないと言う言葉を聞いた途端、また顔をくしゃくしゃと崩し涙を浮かべた。

 そこですかさずローズは次の作戦を実行する。


「けど、シャルロッテ。これで良かったと私は思うのよ」


 ローズは慈愛の笑顔を受けべてそう言った。

 すると、それを聞いたシャルロッテは、泣くのを止めてキョトンとした顔でローズの事を見詰めて来る。


「これで……良かった……? え? それって……?」


 意味が分からないと言った表情をして首を傾げていた。

 しかし一瞬の後、その言葉の意味を自分なりに解釈したらしくまたくしゃくしゃな顔になる。

 おそらく『貴女との記憶なんて必要無いわ』と捉えたようだ。

 それに合わせて、口止め作戦の前哨戦である仲直りの為に準備していた言葉をトドメとばかりに言い放つ。


「だって、シャルロッテ。貴女との記憶は喧嘩ばっかりって話じゃない? だからそんな悲しい記憶は要らないのよ。これからは楽しい記憶を二人で作って行くって言うのはどうかしら?」


「ロ、ローズちゃん……」


 その言葉を聞いた途端、シャルロッテは満面の笑みを浮かべて抱きついて来る。

 『ううう、仕方無いわ。ドツボに嵌まって行ってる気がするけども何より説得する事が先決よ』と、ローズは自分に言い聞かせた。


「シャルロッテ、一つお願いが有るのだけどいいかしら?」


「お願い? ローズちゃんのお願いなら何でも聞くわ」


 ローズの言葉に少し体を離してローズの事を見詰めるシャルロッテ。

 そして内容を聞かない内に二つ返事で了承した。

 『こいつどんだけローズの事が好きなのよ』と、心の中でツッコミを入れつつ何と上手くいきそうな展開にローズはホッと胸を撫で下ろす。


「実は私が記憶喪失って事は誰にも言っていないの」


「どうして?」


 シャルロッテは小首を傾げて理由を尋ねて来る。

 ローズは純粋な瞳に少したじろぎながらも口止め作戦の最後の言葉を口にした。


「記憶が無くなったのはお父様の出立の日だったのよ。危険な任務に旅立つお父様に心配を掛けたくなくて黙っていたの。今更皆に言っても迷惑を掛けるだけだし、もしかするとそれでお父様の耳に届くかもしれない。だからお願いシャルロッテ、この事は二人だけの秘密にしていて欲しいの」


「ローズちゃん……なんて健気なの。分かった! 誰にも言わないわ。ふふふふ、二人だけの秘密……。うふふふふ」


 二人の秘密と言う言葉にシャルロッテは上機嫌で嬉しそうに何度も繰り返し呟いていた。

 その姿には、最早悪役令嬢の面影など微塵も感じない。

 『なんか幼児化してない? さっきまでもう少し大人びてたと思うんだけど……。けど、この子ってばちょっとおバカだけど可愛いところあるかも』と、ローズは少しだけシャルロッテに可愛げを感じ出しているが、その心境の変化に自分でも気付いていなかった。



        ◇◆◇



「な、な、なんだそれ……」


 トイレから戻って来たローズの姿を見たオーディックは、顎が落ちんばかりに驚いていた。

 それは何もオーディックだけではない。

 他の皆も同様だ。

 ただ一人サーシャだけはこの展開を読んでいたのかニコニコとローズを見ている。

 そう、食堂に入って来たのはローズだけじゃない。

 その右腕には満面の笑みで腕を絡めて縋り付いているシャルロッテの姿が有ったから、皆は天変地異を見たかのように驚いているのだった。


「ふ、二人共。な、仲直りしたのか……?」


 ベルナルドが恐る恐る尋ねて来た。

 周りはゴクリと唾を飲みその回答を待っている。

 勿論目の前の光景は喧嘩している様には見えないのは分かっていた。

 とても仲が良く見え……、いやそれよりも、もっとこう……なんか違う方向の匂いさえ漂っている。


「あははは……。はい、化粧室でばったり会って、それで仲良く? なって……」


「はい! 皆様、今までご迷惑をお掛けしました。これからはローズちゃ……、ローゼリンデ様と仲良くいたしますわ」


 力無く答えるローズを遮る様に、シャルロッテが元気良くベルナルドの問いに答えた。

 その言葉に皆は驚いたが、ベルナルドやカールは少しだけ現状に納得する。

 派閥二大悪女と呼ばれていた二人だが、天然のローズに対してシャルロッテは何処かローズと張り合う為だけに悪女を装っている様に感じていた。

 それはローズの事が気に入らない為かと思っていたが、もしかするとその逆でローズの事が好きだったからそれを真似ていただけなのではないか?

 そのローズが心を入れ替えたのだ。

 ならば、それに合わせてシャルロッテも変わったのだろう。

 そう理解したベルナルドとカールは、少しただの友情とは違う空気を感じながらも仲良くなった二人に笑顔を向けた。


「仲が良くなったのは良いが、ちょっと近過ぎねぇか?」


「そうです。お嬢様が迷惑そうにしているではないですか。シャルロッテ様、その手をお放しになられて下さい」


 べたべたと抱きついているシャルロットに嫉妬したオーディックとフレデリカが注意する。

 しかし、シャルロッテはそれに逆らう様に今まで以上に身体をローズに寄せた。

 そして、ローズの耳元に顔を近付ける。


「ローズちゃん。これから私もローズちゃんみたいな立派な貴族令嬢を目指す事にするわ」


 決意を籠めたシャルロッテの瞳にローズは引き攣っていた頬を緩ませた。

 どうやらその言葉を挑戦状と受け取ったらしい。

 体育会系の野江 水流は誰からの挑戦で有ろうとも真っ向から受けて立つ性格の持ち主である。


「良いわよシャルロッテ。どっちが素晴らしい貴族令嬢になるか競争よ。絶対に負けないんだから!」




 こうして王国を騒がしていたベルナルド派閥の二大悪女の噂は、これ以降鳴りを潜める事となる。

 そして、その噂はやがて姿を変えて王国二大聖女として後の世に語り継がれる事となるが、それはまた別のお話。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「はっはっはっ! いや~今日は愉快だった」


 ここは深夜のベルクヴァイン家の一室。

 打ち上げも終わり、ベルクヴァイン家以外の者は既にこの屋敷には居ない。

 いや、今豪快に笑い声を上げた者は例外であった。

 純白のビスクドールの様に透き通った白い肌にプラチナブロンドの髪の男の愉快そうな顔に、この部屋のもう一人住人である若者は不満をぶつける。


「お前は天井から見ていたから笑っていられるがよ。下に居た俺達は大変だったんだぜ?」


「まぁ、そう言うな親友。全部上手く纏まったではないか。しかし、さすがは我が許嫁だ。聖女の如きあの姿。惚れ直したぞ」


 白い肌の男は、今日の事を思い出しながら満足げに頷いていた。

 若者は激しく驚いている。


「な、元だろ元! お前の家から一方的に破棄して来たんじゃねぇか!」


 若者は白い肌の男が言った『許嫁』と言う言葉を否定した。

 それを涼しげな顔で受け止める白い肌の男。


「あれは家の者が勝手にやった事、我の意思など無いぞ。それに破棄ではない。公式には保留となっておる」


「な、ぐ……。だとしても、お前は国をっ!」


 白い肌の男の態度に業を煮やした若者は大声を出して何かを言い掛けたが、その言葉を途中で止めた。

 そして言い掛けた事を後悔しているのか若者は顔を顔を顰めて俯いている。

 しかし、白い肌の男は相変わらず涼しげな顔をしていた。


「気にするな親友。お前のお陰で我はここで生きる事が出来ているのだ。確かに今の我の状況では許嫁の契約どころか、我自体存在してないも同じ事。しかしながら我としてもいつまでもここで手をこまねいているつもりもないぞ。この国、そしてバルモア殿の尽力も然り感謝の言葉も無いが、我が手の内の者達も動いてくれている。いつの日か返り咲くつもりだ」


 白い肌の男はまるで演説するかの如く、朗々と若者に自分の決意を述べた。

 若者もその言葉で少しだけ表情を戻す。


「だからと言ってお前に渡すつもりはないぜ。あいつは俺の大切な人だからな」


「ふっ、それでこそ親友だ。まぁ我も彼女の意を無視するつもりはない。最後に彼女が選んだ者が勝者である。勝負だぞ親友!」


 そう言って白い肌の男は不敵に笑って若者に挑戦状を叩き付けるように指を指した。

 若者も負けてはいない。

 その不敵な笑顔を受けて立った。


「あぁ、勝負だ。絶対に負けないからな!」


 部屋の中に二人の笑い声が響き渡る。




「しかしながら、この勝負。我は不利ではないか?」


「そりゃ仕方ないだろ。本来お前は居ない事になってる人間だし、表立って会いに行くわけにもいかないしな」


「むむむ、ならばまたこっそり会いに行くか……」


「おい! 今『また』って言ったか? お前屋敷抜け出して会いに行ったのか!?」


「う、……なんでもない。うん、今のは言葉の綾だ。気にするな親友よ」


「ぜっていー嘘だろ。お前目立つんだから大人しくしてろっての!」


「はっはっはーー! 大丈夫だ。ターバンとマスクをしていたしな」


「ほら嘘じゃねぇか! 逆にそんな奴目立つってーーの」


「はっはっはーー!」



 そんな二人の会話は明け方まで続いた……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る