134 最後の復讐
「さぁ、次だ次だ次だ!!」
暴走したカーンズは闘技場の観客席に居た貴族達を次々と怪物へと変えていく。
「「「GAAAAAAAAA!!!!」」」
「いけ、いけ、いけ!!」
そして、それらの怪物に次々と命令を出し、アメリアを襲わせる。しかし、アメリアは俯きながらも、それらに冷静に対処していく。
『GAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』
『GAAAAAAAAAAAAAAA!!』
「いけ、いけ!! あの女を必ず仕留めるのだ!!」
また、増えすぎた怪物の一部がカーンズの制御をから離れ、アメリアだけでは無く、他の貴族達も襲い続けている。だが、カーンズはそんな事は酌量せず、それらの怪物を放置する。制御から外れたのならば、放っておけといわんばかりの対応だ。
当然、この闘技場から逃げる事が出来ない貴族達は次々と怪物に襲われるか、自分が怪物になるか、そのどちらかの末路を辿っている。
「さぁ、まだだ!! まだ次があるぞ!!」
そして、カーンズが再度杖を振った次の瞬間だった。
「いっ、痛い、痛い、痛い!!」
アンナが苦悶の表情でそんな事を叫び出したのだ。
「アンナ、どうしたアンナ!!」
「おや、そのお嬢さんも運が無い」
「運が無い、だと!?」
そう、カーンズはこの魔術の対象をランダムに設定していた。まだ、この闘技場には彼の贄となる貴族達がまだ残っている。だというのに、次にこの魔術の対象に選ばれたのは他の貴族では無く、アンナであった。
だからこそ、カーンズは運が無いと言ったのだ。
「ふざけるな!! 今すぐアンナに掛けている魔術を解け!!」
だが、そうしている間にもアンナの体は少しずつ醜く膨れ上がっていく。当然、カーンズもその魔術を解く気は一切ない。
「いやっ、いやっ、ヴァイス様、助けて!!」
「アンナ、アンナ!!」
そして、ヴァイスが必死にアンナに手を伸ばそうとしたその次の瞬間、アンナの体は他の貴族達同様、醜い怪物に変化し、自分を縛り続けていた鎖を破壊して、そのままアメリアの元へと向かって行った。
「アンナァァァァァ!!!!」
ヴァイスは必死に叫ぶが、アンナだった怪物は彼の言葉などで止まる筈も無く、アメリアへと襲い掛かっていく。
だが、アメリアが手を横に振うと、その次の瞬間、他の怪物同様、アンナだった怪物は一瞬にしてこの世から消滅していった。
「アンナ……、アン、ナ……」
アンナだった怪物が一瞬にしてこの世から消滅した事でヴァイスは呆然とした表情を浮かべながら、その瞳から涙を零す。
しかし、アンナだった怪物が消滅しても、当たり前の様にカーンズは狂喜の笑みを止めない。
「さぁ、次だ!!」
そして、カーンズが再び杖を振るおうとした次の瞬間だった。
「あ?」
なんと、彼の体にピキピキという音と共に亀裂が走り始めたのである。
そう、彼はこの時、遂に限界を迎えたのだ。元々、彼は予知魔術の使い過ぎで魂に多大な負荷が掛かっていたのだ。その上、この闘技場の仕掛けの準備を行い、更にはこうして何度も何度も周りの貴族達を怪物に変える魔術を連発していた。
そうなれば、限界が訪れるのも当然と言えるだろう。しかし、限界が来ても彼は止まろうとはしない。彼の興味はアメリアの持つ魔術にしかなかったのだ。いや、それは最早興味では無く、狂気的な執着といっても良い。
人の寿命を遥かに超えた長い年月を生き続け、魔術にどこまでも狂った彼はもはや狂人という他無いだろう。
「はっ、はははははははは!!!! はははははははは!!!!」
そして、カーンズが再び魔術を使おうとしたその次の瞬間、限界を超えた彼の体はビキビキ、という音と共に砕け散り、それと同時に生き残っていた怪物達もまるで道連れのように消え去るのだった。
カーンズが死んだ後、この場には静寂だけが広がっていた。
彼が死んだ事によって、この闘技場に張られた結界は消滅していた。その為、僅かに生き残った貴族達は貴賓席にいるヴァイスの事を放り出し、我先にとこの闘技場から逃げ出していた。
また、カーンズが死んだ事でヴァイスを縛っていた鎖も消滅している。
「アンナ、アンナ……」
しかし、ヴァイスはアンナが死んだという現実を受け入れる事が出来ず、只々呆然とするしかできなかった。
「結局、私には復讐という道しか残っていなかった、という事なのでしょうね……」
そして、アメリアはそう呟きながらおもむろに顔を上げると、自らのすぐ傍に落ちていたアンナが身に着けていたいた大きな宝石が埋め込まれたブローチを拾い上げ、そのまま指を鳴らす。
すると、次の瞬間、彼女はヴァイスのいる貴賓席のすぐ傍に転移していた。
「本当に、本当に長かったです。やっと、やっとここまで来る事が出来ました」
「っ、アメリアっ、来るなっ、来るなっ!!」
「さぁ、最後の復讐を始めましょうか」
すると、アメリアは何処からか手の平サイズの丸い小さな無色透明の石を取り出した。その後、アメリアは右手にその小さな石を置くと、左手の指をパチンと鳴らす。
そして、その次の瞬間、その石の下には小さな魔法陣が現れた。その魔法陣が輝き出すと、その直後、この闘技場全体から光り輝く光球が次々と出現し、その光球は次々とその透明の石へと集っていく。
その謎の光景にヴァイスは困惑するが、やがて、それらの光球の全てが石の中へと集まると、無色透明だった石は次第にまるで鮮血を思わせる様な真っ赤な石へと変化していく。
「では、貴方にはこれから祝福と呪いを差し上げましょうか」
アメリアはそう言いながらはその真っ赤な石を口の中に含んだと思うと、そのまま勢い良くヴァイスへと口づけを行った。
そして、アメリアは口に含んだその石を口移しでヴァイスの口の中へと入れたかと思うと、その後は自らの舌を上手く使い、無理矢理その石を彼の喉の奥まで押し込んでいく。
「んっ、んっ!!」
一方のヴァイスはアメリアが起こした突然の行動に驚き、思わずその石を飲み込んでしまった。
だが、その直後、やっと正気に戻った彼はそのままアメリアを払いのける。しかし、ヴァイスの表情にはアメリアの謎の行動に困惑を隠せない。
「っ!! アメリア、お前は一体何を!?」
「ふふっ、もう少し喜んだらどうなのですか? 今、貴方に差し上げた物は数多の権力者たちが希いながらも手に入れる事が出来なかった人類の夢、その一つなのですから」
「……お前は何を言って……」
だが、その次の瞬間だった。ヴァイスの体には今迄彼が感じた事が無い様な激痛が襲う。その痛みは自分の体がまるで全く別のモノへと作り替えられているとしか表現できないような激しい痛みだった。
「がっ、ああああああああああああああああああ!! アメ、リア、お前は一体何をした!?」
「それは、いずれ嫌でも分かりますよ」
そう言いながら、アメリアはアンナが身に着けていたブローチを彼の足元に置く。それは、永遠の地獄を味わう事になるだろうヴァイスに対してのアメリアなりの手向けだった。
「ふふっ、では、永遠に、永遠に、さようなら」
そして、アメリアはヴァイスに向けて優雅にカーテシーをしながら別れの挨拶した後、転移魔術を使い、この場から去るのだった。
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