31 見抜かれた心の闇
「ひぃぃぃぃ!!!! 来るな!! 来るなあっ!!!!」
デニスはアメリアが近づく度、滑稽な様子で後ろへと下がっていた。彼のそんな姿を見たアメリアは満足げな表情を浮かべる。
その滑稽な様子が面白かったのか、アメリアはデニスを弄ぶかのようにゆっくりと一歩、また一歩と進めて行く。そして、それを見たデニスはまた後ろに下がるという、傍から見れば遊んでいる様にしか見えない様な事を繰り返していた。だが、その果てに彼にとって致命的な音が聞こえたのだ。
―――――ドンッ
「ひっ!! まさかっ!?」
それは、デニスの背中が壁に当たった音だ。
そう、彼は後ろに下がり続けた結果、遂に部屋の側面の壁まで到達してしまったのだ。こうなってしまえば、もう逃げ場はない。それでも壁に縋りつくような状態となり、必死にアメリアの魔の手から逃れようとする。
「ひぃぃぃぃぃ!! こっちに来るなぁ!!!!」
「さて、伯父様。もう逃げられませんよ?」
『永劫の鎖よ、我が敵を拘束せよ』
そして、アメリアが呪文を唱えると、デニスの足元に魔法陣が現れ、そこから鎖が現れる。相手を拘束する事に特化した『永劫の鎖』の魔術だ。その鎖はデニスの動きを封じる様に彼の四肢を縛り付けていく。
だが、デニスは鎖に縛られた直後、今迄以上に慌てるかと思いきや、突如として呆然とした表情を浮かべたかと思うと謎の独白を始めた。
「お前の父であるディーンは私から侯爵の地位とユリアーナを奪った……」
「……一体何を言っているのですか?」
突如として独白を始めたデニスにアメリアは困惑するが、彼はそれを意に介さず独白を続けていく。その独白は、彼の心の中に秘めた嫉妬心、それがこの命の危機に際して無意識の内に言葉として彼の口から漏れ出したのだ。
「だというのに、それだけでは飽き足らず今度はお前が私の命まで奪うのか……」
そう呟いた瞬間、デニスの心の中にある怒りの感情に激しい炎が灯った。それは激情となり、彼を掻き立てる。
「ふざけるな!! やっとあの忌まわしい弟を排除したのだ!! ユリアーナの代わりとなるルナリアも手に入れた!! こんな所で終わってたまるか!!!!」
「なっ!?」
「くそっ、くそっ!! 鎖を、この鎖を消せ!! 今すぐお前を、お前を殺してやる!!」
鎖に縛られたままのデニスは必死に体を動かして鎖を壊そうとするが、彼を縛り付けている鎖はその程度で壊れるほど軟な物では無かった。だが、彼はアメリアに対して必死に渾身の殺意を向け続ける。
「くそっ、くそっ、くそぉっ!!!」
デニスが何度暴れようとも鎖が壊れる事は一切なかった。それでも、アメリアへの殺意だけを燃料にして暴れ続けた。普通の人間だったなら、これ程の強烈な殺意を向けられれば、それだけで臆してしまうだろう。
「無駄ですよ。その鎖は私が消さない限り絶対に壊れる事はありません」
「殺してやる、殺してやるぞアメリア!!!!」
だが、当のアメリアはデニスから向けられる殺意を軽く受け流していた。今の彼女にとってあの位の殺意を向けられたところで臆することは無い。
それどころか、彼女はデニスの独白からとある事実を見抜くことに成功していた。
「しかし、そういう事ですか。伯父様、貴方の心の闇が分かりましたよ」
そう、アメリアは先程のデニスの独白で彼が抱えていた心の闇をおおよそ見抜いていたのだ。
「伯父様、貴方は嫉妬していたのですね? 伯父様からしてみれば侯爵の地位とお母様を奪った事になるお父様に」
「……どうしてそれを!?」
「先程呟いていたではないですか。そこから、推測しただけです。まぁ、伯父様の様子を見る限り正解だったようですが。それにしても、伯父様がお母様に恋慕していたとは想像もしていませんでしたよ……」
「くっ!!」
アメリアに自らの心に抱えた嫉妬心を言い当てられたことで、デニスは赤面し怒りが一時的に鎮静化する。
「……ふふふっ、そうだ、良い事を思い付きました。お父様とお母様を裏切った伯父様にはこの罰が一番相応しいでしょう」
そして、アメリアは妙案が浮かんだと言わんばかりに笑顔を浮かべた。
「伯父様、侯爵という地位がそんなに羨ましかったですか?」
「……ああ!!」
「お母様がそんなに愛しかったですか?」
「……そうだ!!」
「その全てを奪い去ったお父様がそんなに妬ましいですか?」
「ああ、そうだ!! 私が継ぐはずだった地位も、私の妻になる筈だったユリアーナも、全てを奪ったあの男が憎くない筈がないだろう!?」
「……いいでしょう。なら、貴方に見せてあげます。貴方が望んだとおりの世界を、この現実では一切叶う事が無い、全てが貴方の思い通りになる、幸せで幸せで幸せで最も残酷な夢を、ね」
そして、アメリアは鎖で縛られたままのデニスの額に手を当て、幻覚の魔術を行使する。その瞬間、彼の意識は闇へと落ちていった。デニスには、先程アメリアが言った通り、『幸せで幸せで幸せで最も残酷な夢』を見せられる事になる。
「さて、今の内にもう一人への挨拶を済ませましょうか。ルナ、次は貴女の番ですよ?」
最後に、アメリアは懐から羅針盤の様な道具を取り出し、自身の実の妹の事を思い浮かべると不気味な笑みを浮かべるのだった。
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