第112話 待ち人きたる

アイツ、私が帰るのを待っていたらしい。

めずらしく玄関まで迎えに出てきた。


「あ〜、帰ってきた!」

「どしたの?」

「待ってたんだよ〜」

なんだ? サプライズか?

「こっち来て」と促され洗面所に行き

「これ、」と、アイツが指差す方を見ると、ビニール袋。

「何?」

指差しながら、アイツが

「オレ、どうしていいかわかんない。袋かぶせておいたから」と、私を見ます。


「…。」

ビニールをかぶせた中に、G。

でっかいG。

長い触角、すべすべに光る黒いボディ、

カサカサと動きそうな、あの脚………。

「これ、死んでるの?」

「わかんない。だから、どうしていいかわかんない」

「ん? で? 私を待ってたの?」

真っ直ぐに私を見つめ黙ってうなずくアイツ。





しゃーないから、私が片付けましたよ。

Gは生きてましたよ。

袋の中でガサガサと動き、わたしだって身の毛がよだちましたよ。

最小限の空気と共に袋に収めましたよ。

ゴミ袋をしっかり縛って。

サヨナラしましたよ。





虫も殺さないような優しい人。

なんてよく聞きますけどね。



いいえ。違います。

うちのあの人は、

虫を(自分では)殺さないずるい人。 です。


とんだサプライズだわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る