第80話 スンドゥブ

夕飯に「スンドゥブが食べたい」とあいつが言うので、蒸し暑いけど、土鍋でスンドゥブを作った。

作ったと言っても、市販のスンドゥブの素にアサリと豆腐とネギを入れて煮ただけ。最後に卵を落として卵の周りが白く固まったら出来上がり。らくらく。


で、食べ始めてすぐ、悲劇がおきた。

私の喉を、あっつい熱い絹ごし豆腐が塞いだ。

「ぁっ。んが。はふ」と声にならない声で、緊急事態を訴え悶える私。

鍋を真ん中にテーブルを挟んで向こうに座るあいつに「水! 水! 助けて!」と声にならないもだえで訴えるが、

あいつはぜんぜん気がついてくれない。

う、死ぬ。やばい、スンドゥブ喉に詰まらせて死ぬ。と戦い、やっとあっつい豆腐が降りて行った。

内臓が焼け付くようだ。

「み、み、水」とミネラルウォーターのペットボトルに手を伸ばすと、はじめてこっちを向いたあいつ。

テレビを見て「今の見た〜」と笑っている。

やっと水を飲干し、

私、この人に見殺しにされるんだ。と確信した。

いざというとき、あいつはきっと、知らないふりをするぜ。それができる男だ。


ちなみに「さっき、あっつい豆腐が喉に詰まって死ぬとこだった」と言ってみたら「気をつけてお婆ちゃん、ゆっくり食べてね」と言われた。

くっそ〜、呪ってやるぅ!!!!!

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