第125話準備期間 其の五

 チュンチュン…… チチチ……


 朝か…… 隣ではフィーネが裸で寝ている。

 いかん。昨夜二人でお楽しみをした後、そのまま寝てしまったか。


 裸で寝ているところを桜に踏み込まれてはたまらない。父としての威厳が…… 

 フィーネを起こそうとするが、彼女は俺が起こす前に目を覚ます。

 目が合うとフィーネはにっこり微笑む。


「んふふ…… おはようございます……」

「おはよう。ほら、フィーネも服を着て。今日もやることがあるからね」


「はい…… でも少しだけ……」


 フィーネは俺に抱きついてきてキスを求めてくる。

 しょうがないな。軽くキスだけしてから準備を始める。


 今日は福利厚生の二つ目に取りかかる。

 因みに皆のために作った風呂は大盛況で、連日風呂には長蛇の列が続いている。

 あまりの盛況振りに、大浴場を全部で十ヶ所作る羽目になってしまったが。


 まぁこれで、ビアンコ、交配種達は待つことなく風呂に入ることが出来るようになったので、結果オーライだろう。


 簡単に朝食を済ませ、コーヒーを啜る。


「ライトさん。今日は何をするんでしたっけ?」

「今日か? 福利厚生の続きでさ。娯楽を一つ増やそうと思う。さぁ、約束の時間だ。行くぞ!」


 フィーネと一緒に隣の集落へ。そこには多くの子供達が集まっていた。

 おや? どこかで見た顔が。生意気そうなビアンコの男の子のバズだ。


 この子はカオマの町で捕らえられているところを俺に助けられたんだ。その横にはチシャがいる。

 二人は楽しそうに話してるな。友達になったのだろうか?


 俺に気付いたチシャが駆け寄ってくる。


「お父さん! おはよ!」

「あぁ、おはようさん。今日はチシャも参加するのか。桜の手伝いは大丈夫なのか?」


「うん! お姉ちゃんね、矢の準備はもう大丈夫だから遊んでおいでって!」


 もう準備が終わったのか。凄いな。

 五万人の交配種のために魔法の矢を作るようお願いしたのだが…… 後で進捗確認だな。


「そうか。それじゃ始めようか! みんな! 集まってくれ!」


 俺の号令のもと、子供達が寄ってくる。


「おじさん、今日は何をするんだ? 俺達を集めてさ」

「今日はな、お前達にゲームを教えようと思ってな。作るのはみんなだ。見本を見せるから。みんな! しっかり見ておくように!」


 あらかじめ用意しておいた木材にペンで記しをつけてから鋸を入れる。



 ギーコギーコッ



 三十センチ四方の正方形の板が出来上がる。


「まずは板を作るんだ! 鋸は用意してあるけど、気をつけるんだぞ! 怪我したらすぐに言ってくれ! 早くなくていい! 正確にな!」


 子供達は鋸を手にし、板を作り始める。みんな器用に鋸を使ってる。

 その光景を見ると、子供の時を思い出すな。工作の時間にこんな作業をしたっけ。


 みんな楽しそうに作業を続けているが……


「いたっ!?」


 おや? 誰か怪我したか? チシャが泣きながら俺の方に。

 あらら。指をちょっと切ってる。かすり傷だが。


「うぇーん。痛いよー」

「よしよし、今治してやるからな。障壁!」



 ブゥゥンッ



 俺の障壁がチシャを包む。桜の回復程ではないが、障壁の中に入っていると体力が回復するのだ。

 チシャの指の怪我はゆっくり塞がっていく。


「すごーい! 治ったよ!」

「良かったな。でも刃物を使ってるんだから、もっと注意するんだよ」

「うん!」


 チシャは笑顔で作業に戻る。その後はみんな怪我をすることなく作業を終える。

 では次の工程に行こう。


「それじゃ次は二組に別れる! 男女ちょうど半々だな…… 女子、男子に別れて!」


 子供達は二組に別れる。では男子組のリーダーとして……


「バズ! お前を班長に命ずる!」

「ハンチョウ? 何するの?」


「みんなが困ってたら助けてあげるんだ。いいか、男子組にやってもらうことは……」


 昨日の内に用意してある薄く切っている板に小さな円を書く。


「この板を線に添って切っていく。こんな感じにな……」


 ギコギコと鋸を板に入れ、三センチ位の丸い駒を作る。


「これを沢山作るんだ。出来るな?」

「任せてよ! みんな! やるぞ!」


「「「おー!」」」


 はは、男の子だな。元気がいい。男子組はバズに任せて…… 

 次は女子組。リーダーはチシャだな。


「チシャ、見ておくんだ。さっき作った板にまっすぐ線を書いていく。こんな感じでな。マスが縦に八つ、横に八つあるようにして…… ゆっくりでいいから丁寧にな」

「分かった! がんばるね!」


 各々作業を始める。みんな頑張ってくれている。おじさんはちょっと休憩するか。

 子供達が頑張る姿を見つつ、木陰に座る。フィーネも俺の隣に座って……


「ふふ、みんな楽しそう。ところで何を作るんですか?」

「あれか? あれは俺の世界の遊びでね。リバーシって言うんだ」


「リバーシ? 楽しいんですか?」


 ルールは簡単。みんなすぐに覚えられる。

 でも極めるには一生かかるという奥の深いゲームだ。


 フィーネにルールを説明すると……


「面白そう! やってみたいです!」

「そうか、それじゃリバーシが出来たら子供達の前でやってみよう」


「ふふ! 負けませんよ!」


 はは、俺も手を抜く訳にはいかんな。

 そうだ、一つ思い付いた。


「フィーネ、賭けをしよう。そうだな…… 負けたら勝者の言うこと一つ聞く。これでどうだ?」

「やります!」


 ゲームにはこれぐらいのリスクがある方が面白くなる。

 俺が勝ったら何をしてもらおうかな? なに、簡単なことでいいさ。肩でも揉んでもらうか。


 

 一時間後……


 

 バズとチシャがやって来る。二人共、いい笑顔で……


「「出来たー!」」

「ご苦労様。ちゃんと色も塗ってあるな。それじゃフィーネ、やってみようか!」


「はい!」


 対局スタートだ。リバーシには様々な地方ルールがあるが、今回は一般的に知られているルールで対局を行う。

 俺が黒、フィーネは白の駒を使う。


 初期位置に二つ駒を置いて…… 先行は黒だから俺から駒を置き始める。

 まずは一つ目…… フィーネの白い駒をひっくり返す。


「やりましたねー! ならこうだ!」

「お? やるな! それなら俺は……」


「ああん! ずるい! それ待った!」

「待った無し! ほら、次を打って!」


 駒を置いてはひっくり返すを繰り返す。


「お姉ちゃん! 頑張れ!」

「お父さんもしっかり!」


 子供達の声援を受けながらゲームを楽しむ……


 ふふ、昔を思い出すな。かみさんが生きてた時は小さい桜とみんなで遊んだもんだ……

 人生分からないものだな。新しく家族にしたい人達が異世界人になるなんてね。


 微笑ましく思いつつゲームを進める……?


「ここ!」



 パシィッ クルンクルンクルンクルンクルンクルンクルンクルンッ



 しまった! 失念していた! フィーネが打った一手により駒が一列ひっくり返される! 

 形勢は一気に逆転! このままでは!?


「むふふ。ライトさん、どうしたんですか~? このままだと私の勝ちですよ~?」


 むむむ…… この状況…… 

 駄目だ、覆せない……


「参りました……」


 子供達から歓声が上がる!


「すごーい! 面白そう!」

「俺達もやろうぜ!」

「お父さん! 後で私と遊ぼうね!」


 子供達はこぞってリバーシを始める。


 後は放っておいてもビアンコ、交配種達に広まっていくだろう。

 風呂とゲームで一日の疲れを癒してくれればいいのだが……


 しかし、参ったな。まさかフィーネに負けるとは……

 勝ったフィーネはとても嬉しそうだ。ぐぬぅ。ちょっと悔しい。

 だが敗者は約束通り、勝者の願いを叶えないと。


「で、何をして欲しいんだ……?」


 フィーネのことだ。無理なことは言わないだろ。

 カレーを食べたいとか、肩を揉んでとかだ。


 フィーネは少し恥ずかしそうに笑ってから……


「あの…… 二人っきりで…… デートがしたいです……」


 デート? それなりにデートはしてきたつもりだが…… 物足りなかったかな? 

 それじゃフィーネが満足するようなデートを計画するか!

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