第117話ミルナス 其の二

「貴方! 素敵よ! さぁ! いい声でいてちょうだい!」


 ミルナスが突っ込んでくる! 



 ダッ ブンッ シュバッ



 速い!? ミルナスは両手に短剣を持っている。

 不規則な斬撃、刺突が俺を襲う! 


 だが俺の持つ武器は高周波ナイフだ! 

 こいつで斬れないものは存在しない! 

 お前の短剣を切り裂いてやる! 


 右方向から来る短剣を高周波ナイフで受け止める! このままぶった斬……



 ガキィンッ



 斬れない!? どういうことだ!? 

 俺がかつて遊んでいたFPS、死の輪舞で産み出されるこのナイフは最強の武器の一角だ。

 どんな堅い装甲を纏っていても意味は無い。

 まさに紙を切り裂くように敵プレイヤーを切断していく最強の刃だ。


 だが、ミルナスの短剣は高周波ナイフを受け止める…… 

 高周波ナイフは常に微振動をしているので、刃が当たっている部分から火花が発生する。


「すごいわね! 私の魔法剣を受け止めるなんて!」


 魔法剣!? しまった! ミルナスは短剣に魔法をかけているのか! 

 恐らく魔法剣は剣その物を強化している。でなければ打ち合うことなど出来ないはずなんだ。


「そこっ!」


 

 サクッ



 熱い! 痛みではない。右腕に熱を感じる。初めての経験だ。

 斬られると痛みではなく、熱さを感じるんだ……


「あん……」


 右腕が感じる熱が次第と痛みに変わってくる。

 俺を見るミルナスの表情…… おいおい…… アレをしてる時みたいな顔してるよ。

 これがこいつの持つ能力、恍惚エクスタシーか…… 

 俺は分析を発動。どれどれ?



名前:ミルナス・ミーシャ・アルブ・ネグロス

年齢:579

種族:アルブ・ネグロス

Lv:312

DPS:278856

HP:490792 MP:103872 STR:488780 INT:75410

能力:双剣術10 魔法剣10 高速化10 恍惚エクスタシー10(対象を切りつけダメージを与える度にSTR+1000) ???

状態:恍惚発動



 さっき調べた時より攻撃力が上がっている! 

 DPSに至っては二万も上がってんのかよ! チート過ぎるだろ!


 ミルナスは短剣に付いた俺の血を舐める。


「うふふ…… 美味しいわぁ……」


 変態が…… どうする? 近接戦闘ならこいつの方が上だ。

 このままでは…… 高周波ナイフを構えつつ考える。

 こいつに対抗する手段を……


 かつて遊んだゲームを思い出す。

 歴史に残る伝説的なゲーム。

 その主人公は特別な攻撃方法を持っていた。

 単なるアクションではなく、近接戦闘と銃を使い分ける攻撃……


 イメージする……


 全世界で爆発的に売れたスニーキングアクションを……


 オドを練りながらナイフを逆手に持ち、ハンドキャノンを構える……


「あら? うふふ、不思議なことするのね。たしかその武器ってジュウっていうんでしょ? オドを高速で発射するのよね? バルゥ様から聞いたわ。私に通用するかしら? 私はそのジュウより速く動けるわよ」


 準備は出来た。新しい能力が発動するのを感じる。

 これがあれば…… いや、これだけでは駄目だな。

 ミルナスと対峙しつつもう一つの能力を創造……


「うふふ、そろそろいいかしら? もうね…… 貴方を切り裂きたくてウズウズしてるの! あぁん! もう! 我慢出来ない!!」



 ダッ!



 目にも止まらぬ速さでミルナスが突っ込んでくる。

 上手くいけよ…… 


 ミルナスの動きに少しだが目が追い付いてくる。

 奴の攻撃は…… 刺突。狙いは俺の首か。


 高周波ナイフを斜めに構え、刺突を受け流す……



 キィンッ

 


 俺のナイフを滑るようにミルナスの短剣が火花を放ちながら走り抜ける。


 


 短剣が俺の頬を掠める




 ミルナスの刺突を反らす



 

 左手の短剣が俺の顔を狙うが




 ミルナスの二の腕に手を添えて動きを制する




 俺は高周波ナイフをミルナスの二の腕に添えてから




 下に引き抜く




 鮮血がほとばしる




 ミルナスと目が合った




 何が起こったのか理解出来ていないようだ




 一瞬の隙を見逃さない




 超至近距離からハンドキャノンを発砲




 ドドンッ




 二連射。いずれもミルナスの胴体に命中。


「くぁっ!?」


 ミルナスはバックステップで距離を取る。

 腹を押さえ、膝を着いた。

 見逃すかよ。俺はハンドキャノンを構え発砲!

 


 ドドドドドドンッ ドシュッ



「くっ!?」


 ミルナスはお得意の高速化で銃弾を避けようとするが、ちょっと遅かったみたいだな。

 再び現れた時ミルナスは肩から血を流していた。


「はぁはぁ…… そんな……?」


 傷付いた腹と肩を見て悔しそうに…… 

 いや、笑ってやがる。


「うふふ…… あはははは! 貴方って最高! 私を傷付けるなんて、バルゥ様以来よ! 自分の血なんてこの二百年見てなかった! でもまだ足りないの! こんなんじゃ、まだ逝けないの!」

 

 変態が。お前を逝かす気なんて無い。ただ殺すだけだ。

 この女を生かしておく訳にはいかない。

 生かしておけば必ず障害となって再び俺の前に立つことになるだろうからな。


 ミルナスは立ち上がって短剣を構える。


「それにしても話が違うわね。貴方、ジュウだけを使って戦うんでしょ? でも今の攻撃は…… それが貴方の戦い方なの?」

「本来は違う。これは近接戦闘用の能力だ。お前に言っても分からないだろうが…… これはCQBだ」


 CQB…… クロース・クオーター・バトル、狭い室内などで行う近接戦闘術のことだ。

 ナイフ、体術を使うCQCに銃を加え、中距離での戦闘を可能とするのがCQBだ。


 伝説の傭兵が主人公のゲームから創造した能力だ。

 上手くいくか心配だったが、何とか創造は成功したみたいだな。


 どの程度のダメージを与えることが出来たのだろうか? 

 分析を発動し、ミルナスのステータスを確認する。



名前:ミルナス・ミーシャ・アルブ・ネグロス

年齢:579

種族:アルブ・ネグロス

Lv:312

DPS:305811

HP:432501/490792 MP:103872 STR:487780 INT:75410

能力 双剣術10 魔法剣10 高速化10 恍惚エクスタシー10(対象を切りつけダメージを与える度にSTR+1000) 被虐性欲マゾヒズム(ダメージを負う毎に攻撃力増加)

状態:恍惚発動 被虐性欲発動


 六万近くダメージを与えることが……? 

 あれ? こいつのDPSだがさっきより上がってないか? 


 分かった…… 隠された能力が発動したのか。

 被虐性欲って…… チートにも程があるだろ!? 

 ダメージを負っても与えても攻撃力が上がるのかよ!?


 ミルナスは腹の傷に指を突っ込んで、うっとりした顔をする……



 グチョッ グチョッ



「ああん…… いいわぁ…… この痛み……」


 まさか!? いや、そのまさかだな。わざと自分を傷付けることで攻撃力を上げてるんだ。

 ミルナスはクチュクチュと腹の銃創を嬲ると同時に股間に手を伸ばし…… 

 HPとDPSだけ確認すると……



DPS:357842

HP:252897/490792



 ふざけんな…… 

 HPは減ったがDPSが初期より十万上がってる……


「ん……!?」


 ミルナスはビクビクと体を震わせる。

 項垂れた顔を上げ、俺と視線を合わせる。


「はぁはぁ…… うふふ…… 貴方も分かってると思うけど…… これで私の力は上がったわ…… 貴方に勝ち目は無いの…… だからね…… さっさと私の物になりなさい! 永遠にね!!」



 スッ……



 ミルナスの姿が残像を残して消える!


 どこ……?


 

 グサッ



 腹部に熱を感じる。


 ミルナスの片手が後ろから回る。


 吐息が耳元に当たる…… 


 バックスタブか……


「うふふ…… 気持ちいいでしょ……?」


 ミルナスは俺の耳に舌を這わせ、刺した短剣をグリグリと抉ってくる。

 かつて無い痛みが俺を襲ってくる……


「ぐおっ……!? し、障壁!!」



 ブゥゥンッ バシュッ!



 障壁を展開! ミルナスは障壁に弾かれ部屋の壁に叩きつけられる! 


「くそ…… 痛ぇ……」


 俺は障壁の中で背中を押さえて倒れ込む。

 幸いなことに今の障壁は中に入っていれば、体力が自動回復する。

 だが桜のヒールと違い回復速度は遅い。何時までも障壁の中に籠ってはいられない。


 傷が塞がるのを確認。俺のステータスは……


 

名前:ライト シブハラ

種族:人族

年齢:40

Lv:134

DPS:9985

HP:5078413/2E+7 MP:2E+7 STR:2E+7 INT:2E+7

能力:剣術10 武術10 創造 10 料理10 結束 分析10 作成10 障壁10 閃光10 指圧10 アルブの恩恵8 

魔銃10(ハンドキャノン ショットガン ロケットランチャー スナイパーライフル アサルトライフル TLS)

特殊:守護者 死の輪舞

亡き妻の加護:他言語習得 無限ガソリン 無限メンテナンス 無限コーヒー 無限タバコ サイドカー 馬力向上

New! CQB 破殴拳ハボックブロウ



 HPは残り五百万。ある程度はミルナスの攻撃を喰らっても耐えられるか…… 


 俺は障壁を解除し、ミルナスと再び対峙する。


「あら? もう死ぬ準備が出来たの?」

「違う。俺は死ぬ気は無いんでね。お前を殺す準備は出来たけどな」

「あははは! 素敵! さぁ私を逝かせてちょうだい!!」


 高笑いをするミルナス…… 


 次の一手が通用しなければ……

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