第110話作戦会議 其の一

 チュンチュン…… チチチ……


 鳥の声を聞いて目覚める。朝が来たか。隣で寝ているフィーネを起こさないとな。


「フィーネ。起きて」

「ん…… おはようございます……」


 にっこり笑っておはようのキスをしてくる。昨日は夜も遅いのに盛り上がってしまった。 

 もう少し寝ていたいところだが、今日は大事な話し合いがあるはずだ。シャキッとしないとな。


 一人ベッドを起きだし服を着る……のだがフィーネはベッドに入ったまま俺を見ている。


「どうした?」

「ふふ、ライトさんかっこいいなって思ってるだけです」


 かっこいい? 俺が? 自分の容姿に気を使うのは十代までだった。

 結婚してから、いや、凪を付き合いだしてからは自分の容姿には興味が無くなったからな。

 常に清潔にはしていたが、かっこいいなんて言われたのは久しぶりだ。

 はは、なんかくすぐったい。


「ほら、フィーネも着替えて」

「はーい」


 フィーネもようやく起きだし、支度を始める。お互い準備が終わったところで……



 トントン



 ドアをノックする音が。迎えが来たか。よかった。裸で寝ているところに来られたら…… 

 別に隠すようなことではないが、やっぱり恥ずかしいしな。


 ドアを開けるとマルス……じゃなかった。女だ。ネグロス? 

 違うか。交配種カアラの女だ。昨日は夜だったこともあり、交配種とネグロスの違いがあまり分からなかったが陽光の下で比べてみるとその差が分かる。

 明らかに肌の色が薄い。


「マルスが呼んでるよ。早く来てちょうだい」

「あぁ…… すまんな。君は?」


「…………」


 女は答えることなく去っていく。なんか歓迎されてないみたいだな。

 女を追って集落中央の広場に行く。そこにはマルス、先程の女と交配種が多数、桜とチシャもいるな。


「おはよう。よく眠れたか?」

「あぁ。小屋を用意してくれて助かったよ。それじゃ昨日の話の続きだが…… その前に。マルス、あんたがここの責任者って認識で合ってるよな?」


「とりあえずはな。ネグロスから逃げてきた同胞を匿ったのがきっかけでな。それ以来ずっとここで逃げてきた同胞や交配種を匿い続けている」

「ここにいるビアンコ、交配種の数は?」


「およそ一万ってとこだ」

「一万か…… その中で戦うことが出来るのはどれくらいだ?」


「子供や老人、怪我人だっているからな。そうだな…… 三千人ってとこだろう」


 三千人か…… 国相手に戦うのにその数ではまともに戦うどころではないだろう。

 アスファル聖国ではリアンナ奴隷解放戦線が国相手に戦っていたが所詮はゲリラ戦。ちまちまと周辺の町を襲っていたに過ぎない。

 彼らと共に似たようなことは出来ても、それだけでは転移船を手にするまでに至らないだろう。


 とにかく数を…… 兵力を増やさないと。


「マルス。昨日も言ったが俺達は自身の目的を果たす。そのためにもお前達に協力しようと思う。一緒に戦ってくれるか? 一緒に捕らわれているアルブ・ビアンコを救いださないか?」


 それを聞いてマルスの横にいる女が口を開く。


「マルス! こんな男が信用出来るのかい!? ネグロス相手に戦争を仕掛けようってんだろ! 下手したら皆殺されちまうんだよ! それが分からな……」

「ロナ! 黙れ!」


 マルスは怒鳴り、そして俺に謝ってくる。


「すまん…… だがあんたのことを不審に思っているやつもいるのは事実だ。俺はビアンコだからカナンの予言は知っている。だからあんたのことを受け入れることが出来たんだが交配種は違う。人族のことはあまり信用していなくてな……」


 そうか、マルスは俺を信用してくれているが、周りはそうではないと…… 

 恐らくだがこの森にいるのは交配種の方が多いだろう。なら彼らから信用を得る必要がある。

 俺は交配種の女、ロナって言ったか? 彼女に話しかける。


「ロナだったか? 挨拶が遅れたな。俺は来人。よろしく頼む。一つ聞いておきたい。君はネグロスから酷い扱いを受けてきたんだろ? マルスから聞いたんだ。ネグロスは交配種を生み出して奴隷のように扱うって…… 君はこのままでいいのか? 辛かったから逃げてきたんだろ? 逃げることの出来なかった同胞は未だネグロスに酷いことをされてるんだろ? 助けたいと思わないのか?」

「うるさい! そんなの分かってるよ! でも命あっての物種だろ! 私はまだ死にたくないんだよ!」


 その通り。生きることは生物にとって最重要事項だろう。

 だけどこのまま森の中でいつか狩られることに怯えながら生きていくのは辛いだけだ。ならば……


「勝つ。それが可能だったらどうする?」

「あんたにそれが出来るのかい……?」


「逆に聞こう。なんで出来ないと思うんだ?」

「あんた馬鹿じゃないの!? 国相手に戦おうって大口叩く男のことをどう信じろっていうのさ!」


 むぅ。しょうがない。

 あまり自慢をするのは俺らしくないのだが。今までの実績を上げていくか。


「聞いてくれ。俺はこの国とは一番遠い国、リッヒランドに転移してきた。そこで誰も攻略したことのないダンジョンを攻略してきてな。そうだな、証拠として…… フィーネ、お前の剣をみせてやってくれ」

「はい!」


 フィーネはスラリと剣を抜く。

 これは亡国の騎士の剣。クラスはレリック。剣には詳しくないが国宝級の代物だそうだ。

 フィーネは簡単な演武をした後、人の伸長ぐらいはある岩に向かい剣を振り下ろす。


「しっ!!」




 ブンッ スパッ



 独特の掛け声と共に振り下ろされた剣は大岩を縦に両断する! 

 相変わらず見事の腕だな。見惚れしまう。

 マルスもロナも口をポカーンと開けたままその光景に見入っていた。


「お見事」

「えへへ! 褒められちゃいました!」


 はは、調子乗っちゃって。さて少しは納得してくれたかな?


「どうだ? この剣はダンジョン攻略途中で手に入れたものだがな。効果は見え辛いがレジェンダリーの指輪なんかも持ってるぞ」

「レジェンダリー……? 伝説級の装備品を…… で、でもまだだ! たしかに強いのは認めるけどさ! これは戦争なんだろ!? あんた一人強くたって駄目なんだ!」


 まだ納得してくれてないか。それじゃ次だ。


「俺はリッヒランドを出てアズゥホルツに行った。そこで色んな町を救ってきてな。それだけじゃない。この国の皇子でルカっているだろ? そいつと戦う機会があってな。コテンパンにしてやったよ」

「ルカ……? ルカって冷血皇子のルカ・ルクレツィオ!? あいつってかなり強いって噂だよ!? それをコテンパンって……」


 お? これは効果があったみたいだな。ロナが動揺しているように見える。

 なら一気に畳みかけて信頼を得ることにしよう。


「次はアスファル聖国だ。この国の隣の国だから君も少しは知ってるだろ? 俺はリアンナ奴隷解放戦線という組織に協力することになってな。二年後、全ての奴隷を解放するよう法皇に約束させたんだ」

「…………」


 ロナは黙ってしまう。ではダメ押しの一発だ。

 俺の力を目の当たりにすれば、きっと信頼してくれるだろう。

 せっかくだ! 全力で行こう!


「ちょっと驚くかもしれん。覚悟しておいてくれ。君達に俺の力を知っておいてもらいたいからな。これを見れば俺の言うことが信じられると思う」

「あ、あんた…… 一体何者なんだい……?」


「ただの異世界人だよ。それじゃいくぞ……」


 使うのは久しぶりだ。リッヒランドのダンジョンでバンシーという魔物に使って以来だな。


 イメージする……


 かつてハマっていたFPSを……


 創造するは悪魔の兵器。


 瞬間火力はどの武器よりも高い。


 さらに全てのMPを一発に込めることで威力を上げてある。


 手にするはロケットランチャー。


 その名は……


 悪夢ナイトメア……



 ズシン



 両手に重量を感じる。目を開けると、そこには……

 銀色に輝く砲身。美しいエングレーブ。

 そしてこのロケランの先端には猛禽を思わせるレリーフが付いている。

 いつ見ても美しい武器だ。


 さて狙うはどこにするかな? あまり近いところに着弾させるとみんな驚くだろうし。

 森の隙間から大きな山が見えるな。かなり高い山だ。頂きは雪で白く染まっている。生き物もいないだろう。

 試し撃ちにはちょうどいい。山の頂上に標準を合わせる。



 ピッ



 電子音が鳴り響く。ロックが完了した音だ。俺はトリガーに指をかけて……


 発射!


 

 シュオンッ



 発射音を立て、砲身から弾頭が飛び出す! 弾頭はまっすぐ飛び続け…… 

 もうすぐ着弾するな。綺麗な花火を見せてくれよ。


 なんて思ってた……



 

 カッ




 見えたのは光だった。空一面を眩い光が覆う。

 その後、光の後を追うように轟音が鳴り響く!!!!!




 ドゴオォン……




 目標まで何十キロも離れているはずなのに鼓膜を破りそうになるほどの轟音! 

 そして目標の山から見えるキノコ雲…… 

 その光景を俺達は茫然と見つめる……


 少し経つと山を覆うキノコ雲が晴れていく。

 その光景は……? あれ? 山が半分無くなっている…… 

 おかしいな、俺のロケランってこんな威力が高くなかったはずだけど……


 みんなが俺を不審な目で見ている。

 よし、誤魔化すか。


「どう!?」

「「「「「何が!?」」」」」


 総突っ込みを受けてしまうが…… 

 で、でもこれで信頼を勝ち取ることが……出来たかな? 

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