第96話解決策

「ライトさん、お代わり!」


 杏奈に憑依され、意識を閉じ込められていたのに…… 

 フィーネの意識が戻ってきた。

 フィーネは怒りながらもお代わりのカレーを食べ始める……


「もう! ズルいですよ! 私に黙ってカレーを食べるなんて!」

「いや、そう言うけどさ…… フィーネはどうして意識を取り戻せたんだ?」


 一応杏奈は任意でフィーネに体を返せるようだか、数分から数十分といったところだろう。

 だが今回はフィーネの意識が突然現れたような気がする……

 フィーネは三杯目のカレーを完食し、満足したように笑う。


「あー、美味しかった。んふふ、ライトさんのカレーは相変わらず美味しいですね」

「そうか。また作ってやるからな。で、フィーネが戻ってきた理由だけど……」


 フィーネは手元に置いてある水を飲み干し……


「うーん、よく分からないんです…… でも私の中の聖女リアンナがカレーを食べたっていう意識は共有しました。胸が暖かくなって…… 感じたのは懐かしさ。それと…… 満足感? 胸が暖かさで満たされて、それから……? ん……」


 おや? フィーネが突如言葉を失う。

 視線が定まっていないな。もしや……


『ん…… あれ? 私、どうしてここに……?』


 声色が変わる。杏奈だ。杏奈が再び意識を取り戻したんだ。


「大丈夫か? 突然杏奈の意識が消えてフィーネが起きたんだ。これってどういうことだと思う?」

『もしかしたら…… いいえ、間違いありません。頼人さん、私フィーネさんに体を返せるかも……』


 なんだって!? 話を聞かないと。

 杏奈は言っていた。このままではフィーネが死ぬまで憑依したままだと。

 杏奈には悪いがなんとかしてフィーネに体を返してあげないといけないんだ。


「話してくれ……」

『はい。恐らくですが、私が感じている心残りが満たされれば…… 私はフィーネさんから離れ、消えることが出来ると思います……』


 消える? それってつまり……


「成仏ってこと?」

『…………』


 杏奈は黙って頷く。

 そうか、それが杏奈をフィーネから引き剥がす方法なのか。

 杏奈は言った。心残りが満たされたらと。


 先程フィーネが目覚めた理由。恐らくそれは失われた故郷の料理を堪能したからだろう。

 食べ慣れた故郷の味…… それが一時の満足感を杏奈にもたらしたということか……


 しかし杏奈はすぐに覚醒してしまった。

 料理を食べるだけでは根本的な解決にはならないみたいだな。

 解決するためにはもう少し話を聞かないと。

 どこから聞くべきか……? そうだ!


「杏奈、君はどうしてあのダンジョンにいたんだ?」

『ダンジョン…… そういえば…… 確か私はこの国に悪をもたらす者としてあそこに封印されたんです。神官が私の死体に呪いをかけて、決して天国に行けぬようにと…… その後私はレイスとしてダンジョンをさ迷うことになりました。私は憎しみに支配されていました。時折訪れる冒険者やトレジャーハンターを見つけては……』


 殺していたんだよな。

 クロンは言っていた。あのダンジョンから帰って来た者はいないと。

 杏奈、もしくは杏奈の眷属たる魔物の歯牙にかかったということか。


 憎しみが杏奈を支配し、レイスとして訪れる者を殺す。

 的外れかもしれないが…… 一応聞いておくか。


「多分違うとは思うが…… 憎しみが消えるまでこの国の連中に仕返しをしたら…… 成仏出来るとか?」

『いいえ…… 今の私は誰も憎んではいません。確かに殺されたのは悔しいけど…… でも私を死刑にした法皇はもう死んでいますし……』


 違ったか。いや、この恨み晴らさでおくべきかーみたいな感じでさ。

 でも違って良かったよ。それじゃ何をしたら杏奈は満足してくれるのだろうか?


 そうだ、杏奈は聖女リアンナとして奴隷解放のために戦ったんだ。

 もしかしたら…… 試してみるか。


「杏奈、しばらく俺と行動を共にしてくれ。そうだな…… 今からここの責任者に会いに行くんだ。一緒に来てくれるか?」

『え…… 別にいいですが…… そういえばここって何なんですか?』


「んー、なんて言えばいいんだろうな? 地球で言うところの保護施設みたいなものだ」


 ついこの間まではテログループのアジトだったんだけどな。

 杏奈を連れてクロンがいる洞窟最下層の会議室へ。

 あ、そうだ。杏奈に言っておかないと。


「杏奈、悪いが君はフィーネとして振る舞ってくれ。体の中に聖女リアンナがいるって分かったら面倒くさそうだからさ」

『あはは。分かりました。それじゃ今から私はフィーネですね』


「そういうことだ。今からクロンと話す。杏奈はそれを見ていればいいさ。それじゃ入るぞ……」


 会議室前の扉をノックして中に入る。

 クロンは円卓のいつもの席に座って俺達を待っていた。


「おぉ! ライト殿! お帰りなさいませ! ダンジョンはいかがでしたか? 心配していたのですが…… ははは、取り越し苦労だったようですな」

「あぁ、何とか無事に帰って来れたよ。これが戦果の一部だ。見てくれ」


 テーブルに手に入れた宝石を並べる。

 クロンは尻尾を振りながら宝石を確認し始めた。



 ツンツンッ



 ん? 杏奈が肘で俺の腰を突く。

 小声でクロンに聞こえないようにして……


「どうした?」

『どうしたって!? ここは一体何ですか!? なんで奴隷獣人がここにいるんですか!? しかも彼の首輪の色…… あれは逃亡奴隷の首輪のはず……』


「後で話すよ…… ちょっと待っててな……」


 焦る杏奈を諌めてからクロンに話しかける。


「どうだ? これなら金になるだろ」

「はい! 見事な品です! ですが、これだけでは五十億オレンに届かないのでは……」


 テーブルに並べた宝石は十個程度だからな。そう思うのは無理もない。


「心配無い。宝石は全部で千五百個ある。それを換金すれば五十億オレンに届くんじゃないか?」

「千五百!? 本当ですか! 素晴らしい! あぁ! 聖女リアンナ様! ライト殿を引き合わせて頂き感謝します!」


 その聖女はここにいるんだけどね…… まぁそれはよしとするか。


「それじゃ俺達は換金のためどこか町に行こうと思うんだが…… この量の宝石だ。富裕層が住む町がいいだろうな。どこかいい町を知っているか?」

「それならば首都ナタールでしょう。あそこは政治だけでは無く、経済の中心地でもありますからな」


 ナタールか…… 好都合だな。


「そうか、それじゃ少し休んでからナタールに行ってくるよ。金は必ず用意するから心配しないで待っていてくれ。そうだ、桜は元気にしてるか?」

「もちろんです! サクラ殿に頂いたラーメンという食べ物…… 一つ食べてみたのですがアレは一体何なのですか!? あんなに美味しいものがこの世にあったなんて…… しかも長期保存が可能! それだけではありません! サクラ殿はミソ、ショウユなる調味料も提供してくださいました! あれがあればミソラーメン、ショウユラーメンになるというではありませんか!」


 クロンは味を思い出したのか、ペロペロと口の回りを舐める。

 クロンはチシャとは違い、獣タイプの犬獣人だ。二足歩行の犬と言ってもいいだろう。

 そのクロンを見て杏奈が笑ってる……


『かわいい…… もふもふだぁ……』

「ははは、杏奈が獣人を助けた理由が分かったよ。動物が好きなんだな?」


『はい! 日本にいた時は犬も猫も飼ってたんですよ! それなのに…… この国の人は酷いんです! 獣人のみんなにあんな酷い事を……』

 

 長い間、この国の獣人達は奴隷として苦しんできた。

 杏奈はそれを良しとせず、奴隷解放のために戦った。正義感の強い子だったんだな。


 この子も救わなきゃ。そのためにも杏奈をナタールに連れて行く必要があるな。


「クロン、俺は宝石の換金のために明日にはナタールに行く。フィーネも連れていくよ」

「はい! 道中お気を付けて!」


 俺はクロンに別れを告げ自室に戻る。

 明日にはきっと杏奈もフィーネも助けることが出来るだろうな。

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