第88話お金
「では第二回! 我がパーティ、フィリアの作戦会議を始めます!」
「「わー」」
フィーネとチシャがやる気無さそうに拍手をする。
何故か今回も桜が議長をやっているのだが。
「それでは! 今回の議題はパパからお願いします! どうぞ!」
「あ、あぁ…… お前達にも話した通りだが、近い将来この国の奴隷は全て解放される。聞いた話だとルチアーニが国民に向かって宣言したそうだ。奴隷への理不尽な暴力を認めないってな。
それでクロン達リアンナ奴隷解放戦線も活動内容を変えることになった。人族を襲うのは止めてこれからは力の無い奴隷を保護していくそうだ」
俺の話を聞いていたフィーネが手を上げる。
「どうぞ……」
「あ、ありがとうございます。今までの話だと何も問題無いように思えたんですが…… むしろいい報告が聞けたなって思いました」
ここまでの話だけだったらね。
俺はアーニャから受け取った今後必要とされるであろう金額が書いてある紙を皆に見せる。
数字を見た桜とフィーネが青い顔をする。
チシャはなんだかよく分からないって顔だ。
「お父さん、0がいっぱいだね。どれくらい多いのか分かんない」
「これは億っていう単位でね…… とにかくすごく大きな数字のことだよ」
「パパ…… 大きすぎない? 全部で九十億オレンって……」
「サクラ、違うわよ。最初の食費と維持費は一年分でしょ? ルチアーニの任期が始まるまであと二年かかるから…… 全部で百十億オレンが必要ってことになるわ」
そうなんだよな。組織のこれからを考えるとそれだけの金が必要だ。
しかも今までの収入はテロを起こし、火事場泥棒的な感じで略奪してきたものだ。
今後それは望めない。人を殺さず後二年活動するにはこれだけの金を稼いでくる必要がある。
でもどうやって…… 大体一オレンは一円の計算だ。
一介のサラリーマンの俺が百十億もの金をどうやって稼げばいいのか……
「「「むむむ……」」」
三人寄れば文殊の知恵というが、中々いいアイディアが思い浮かばない。
何かいい方法は……? お? 桜がおずおずと手を上げる。
「あのさ…… 食費なんだけど、ある程度は私の加護で何とかなるんじゃないの? ほら、無限ラーメンってあるじゃない? 他にも無限調味料もあるし。毎日ラーメンは飽きちゃうだろうけど、一日一食はラーメンにするだけでも食費の三分の一は抑えることは出来るんじゃないの?」
「「採用!」」
「早っ!? こんな適当な感じでいいの?」
桜はそういうが、かなりいいアイディアだと思う。
ラーメンの賞味期限は二年ぐらいあるだろ。
それに工夫次第で乾麺を使えば色んな料理に代用出来る。
食費は半分に抑えることが出来ると思っていいだろう。
それでも二年分の食費八十億オレンが四十億オレンに減っただけた。
食費だけで四十億オレンか…… 取り合えず次に進もう。
「次はアジトの維持費、保護した奴隷が住む建物の建設費だ」
「ライトさん、維持費って何ですか?」
俺は維持費の説明を始める。このアジトは自然の鍾乳洞を使っている。
灯り取りのための燃料。恐らくは洞窟内の補強工事。
改装のための材料購入なんかもそうだろうな。
「うわぁ…… それはお金がかかりますね」
「他にも洗濯代とかもあるからな。組織を動かすってのは金がかかるんだよな……」
一応俺も社会人の端くれだ。年間で億の金を動かしては利益を出してきた。
でも所詮億だ。桁が二つも違う大金を動かしたことなど無い。初めての経験だ。
「維持費、建設費は俺が何とかする」
「何とかって?」
あれ? みんな気付いてると思ったんだが。
「燃料は無限ガソリンから賄う。建物、補強工事は作成を使えば何とかなるはずだ」
「なるほど! さすがライトさんですね!」
先日作ったプール程度の大きさのものでも消費するMPは千程度だ。
数日作業すれば五千人を収納出来るような建築物も出来るだろ。多分。
「これで三十億オレン分は賄えるだろ? あとは四十億オレン分か…… 何とかしなくちゃな……」
「はーい……」
「はい、フィーネ。何か名案が?」
「いえ、名案かどうかは分かりませんが、この付近に中規模なダンジョンがあるそうです。そこでモンスタードロップを狙って魔物退治をするとかどうでしょうか?」
おぉ! ダンジョンがあるのか!
なつかしいな。最初に訪れた町ヴェレンの付近には死の迷宮と呼ばれるダンジョンがあったんだ。
俺達はそこに潜って路銀を稼ぐことにしたんだよな。
だかしかし。手に入れたドロップ品の中で換金出来なかったものもある。
レジェンダリー、レリッククラスのアイテムは高過ぎて換金出来ないそうだ。
マジッククラスが店で取引出来る限界かな?
モンスタードロップを狙うには桜の協力がいる。
「桜、久々に踊ってくれないか?」
「付与効果を付けるの? でもあれってランダムに付与効果が付くから扱い辛いんだよね……」
「確かにそうだな。そこでだ…… 難しいとは思うが、換金出来る程度のドロップが発生するような付与効果を付けて欲しい」
「無茶ぶり!? まぁやってみるけどさ。お金にならなかったらドロップしても意味無いもんね」
よし、これでやることは決まったな。
おや? 最後にチシャが手をあげるのだが。
「私は何をすればいいの?」
チシャも手伝いたいのか。この子にはやってもらうことはないが……
いや、チシャの好意をありがたく受け取っておこう。
「桜が出すラーメンを倉庫に運ぶのを手伝ってくれないか? きっと重いぞ。出来るか?」
「うん! 任せて!」
いい子だ。手伝ってくれるお礼にお菓子を上げよう。
特別に二個な?
チシャにこっそりお菓子を渡す。
それじゃクロンに報告に行くか。本日二回目の会議室へ。
中に入ると、尻尾を振りながら出迎えてくれた。
こうして見ると柴犬っぽくてかわいいのだが。
「おぉ! ライト殿! まさかもう何か考えついたのですか!?」
「あぁ。少し長くなるが聞いてくれるか?」
「ライト殿のためなら何時間でも! さあお願いします!」
何時間もかからんよ。用意してきた紙に俺の計画を書き記す。
削れる食費、建設費、維持費の内訳。そして今後必要最低限な金額。
一応何かあった時のために十億上乗せしておいた。
「……という訳だ。あと五十億あれば二年は組織を運営出来るはずだ」
「素晴らしい! してこの五十億オレンはどこから稼いでくるのですか?」
「聞いた話だと近くにダンジョンがあるそうじゃないか。そこに潜ってモンスタードロップを狙ってくるよ」
「…………」
ん? クロンの動きが止まった。どうした?
「ラ、ライト様…… そこのダンジョンはお勧め出来ません……」
「というと?」
「あの名も無きダンジョンは階層は少ないものの出てくるモンスターが強すぎるのです。如何にライト殿が強くとも…… 身の安全は保証出来ません……」
ほう、そんなにヤバイのか。
でもこの国でそこまで強い魔物には出会ってないな。
オアシスで襲われたサーペントが一番強かっただろうか。
一撃で桜のHPの半分を削ったぐらいだ。
サーペント以上の強敵が出るかもな。注意しておかないと……
だが俺達の戦力も上がっている。そうは苦戦しないだろう。
何故なら今のフィーネは俺よりも強い。なんか新しい能力が付いていたのだ。
その名も来人の愛……
ネーミングはともかく各ステータスが十万加算される超チート能力だ。
ダンジョンは俺とフィーネで何とかなるだろ。
桜はラーメンの生産に集中してもらえればいい。
「建設と改装はダンジョンに行った後でいいな? 明日から桜に食料の生産をやってもらうから搬入するのに人手を借りたい」
「かしこまりました! それはお任せください!」
よし、これでやることは終わったな。明日からダンジョンか。
ん? フィーネと二人か……
ははは、なんかデートっぽいな。
ダンジョンでデートか。それはそれで楽しそうだな。
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