第74話意外な展開

 俺がリアンナ奴隷解放戦線に協力することでの見返り。

 それを代表者のクロンに伝える。それは……

 

「俺は捕らわれた仲間を救いたいだけだ。そのためにも力を貸して欲しい。それだけだ」


 捕らわれた仲間。フィーネを取り戻す。

 そのためにはこいつらの協力が必要だ。

 クロンが難しい顔をしてから……


「ですが…… 恐らくお仲間は首都のナタールにいると思われます。あそこは鉄壁の要塞都市。そう簡単には攻略出来ませんぞ?」


 別に戦争を仕掛けようってわけじゃない。

 俺自身一国を相手に戦えるほどのチート性能は有していない。

 あくまで人としてかなり強いってとこだろう。


「俺がフィーネを助けるまでの間、逃走ルートを確保してくれればいいさ。それと情報が欲しい。フィーネはナタールのどこにいるか分かるか?」

「逃走ルートですか? ですがその前に…… お仲間は恐らく大聖堂の中にいるでしょう。そこには罪人を幽閉しておく施設があるはずです」


「大聖堂…… その情報は確かか?」

「はい。間違いないはずです。べリス。ライト様をあそこへ……」


「かしこまりました。ライト様、着いてきていただけますかな?」


 今度は猫獣人に連れられ部屋を出る。どこに連れていかれるのやら。

 着いた先は…… 牢獄だ。猫獣人のべリスはとある牢獄の前で止まる。

 その中には法衣を着た男がうつろな目をして虚空を見上げている。

 俺達に気付いたのか鉄格子を掴んで騒ぎだした!?


「くずり! くずりをくれ! だのむ!」

「分かった分かった。だがその前にここにいるライト様に大聖堂の様子を話せ」


「だめだ! ぐすりがざきだ! もうぐるっちまう!」


 なんだこの男は? 狂ってるのか? 


「しょうがねえな。ほらよ」


 べリスは懐から紙に包まれた粉末状の粉を取り出す。 

 あれって危ない薬なんじゃないか? 

 男は舐めるように薬を飲み込んで…… 

 すると目に光が宿る。知性が戻ってきた感じだ。


「はぁはぁ…… 死ぬかと思った…… おい! 獣人共! 私をさっさとここから出さんか! 今なら減刑に応じられるぞ!」

「こいつ…… 捕まってるのに態度を変えないままなんですよ。こいつはリンドブルム。大聖堂に勤める枢機卿の一人です」


「枢機卿? よく分からんがお偉いさんってことだろ? そいつを拉致したと」

「そういうことです。おい、さっきも言ったが大聖堂のことを話すんだ」


「誰が言うか……? って薬! 薬を!」


 べリスは危ないであろう薬をリンドブルムの手が届かないところに置く。


「言え。そうすれば薬をやる」

「分かった! 何でも言う!」


「さぁライト様。聞きたいことがあればどうぞ」


 くそ…… こんなの拷問だな。

 人としてやっていいことではないが…… 

 今は手段を選んではいられない。聞きたいことは……


「大聖堂だが…… ルチアーニのいる場所は?」

「三階だ! 一番奥の部屋! 法皇はそこに住んでいる!」


「警備は?」

「聖堂騎士団が警備を担当している! 国一番の強者達だ!」


「罪人はどこに幽閉されている?」

「地下一階の牢獄だ! そこには政治犯や重罪人が裁きの時を待ってる! まだか!? 薬を早く!」


「まだお預けだ。最近アルブ・ビアンコの娘がその牢獄に送られたはずだ。お前はそれを知ってるか?」

「それは知らないんだ! 私は一月前にここに連れてこられたんだ! 最近のことは何も知らん!」


「そうか…… まさかとは思うが捕らわれた罪人に拷問なんか……してないよな?」

「…………」


 してんのかよ…… 


 

 ビリビリッ



 俺は薬の包みを破り捨てる。


「あぁ!? く、薬が! 話が違うぞ!」

「べリス、ありがとう。フィーネがいる場所が分かった」


「そうですか。では戻りましょうか」


 リンドブルムが騒いでるが聞く耳持たん。

 俺達はクロン達がいる部屋に戻ることにした。

 その道中フィーネのことを思う。

 今頃何をしているだろうか? 

 酷いことをされてないだろうか?



 もしフィーネに何かしたら……



 全員殺してやる……



 ん? 前を歩くべリスが全身の毛を逆立てている…… 

 彼は振り向いて……


「ラ、ライト様? なんですかその殺気は……? 死んだかと思いましたよ……」


 べリスは獣型の獣人だ。全身が毛で覆われている。

 猫って威嚇するときに全身の毛を逆立てて体を大きく見せるよな。

 べリスもそうなのだろう。ずいぶんふんわりしてる。

 

 それにしてもべリスをここまで怯えさせるほどの殺気を放っていたのか…… 

 はは、ついこないだまで日本で平和にサラリーマンやってたのにな。

 人生何が起こるか分からないもんだな。



 クロンが待つ部屋に戻り再び席に着く。


「話は聞けましたかな? これで大聖堂の様子は分かったと思います。して、我々はどうあなたに協力すればよろしいのでしょうか? 先ほどは逃走ルートの確保と仰ってましたが……」

「フィーネを助けてから逃げるまでナタールって町を混乱させてくれればいいさ。そこはあんたらを信用してる。嫌味じゃないが町を襲うのなんかは慣れてるだろ? 適当に火を放ってくれればいい。その間に俺はフィーネを連れて逃げるさ。一人で正面から乗り込んで勝てるほど俺は強くない。だが逃げることだけ考えればそんなに難しくないはずだ。俺の力をフル活用すればね」


 且つて遊んでいたFPSでもそうだった。

 高難易度ミッションにおいては仲間の援護が必要不可欠だ。

 だが戦力が整っていない場合は敵のヘイトを他に向けさせ、戦力の高い者が攻略に集中する。

 すべてを倒す必要は無い。

 この場合の攻略条件はフィーネを連れて生きてナタールを出ること。

 そうすれば俺の勝ちだ。


「ナタールを襲うにはどれくらいの人手がいる?」

「そうですな…… ただ火を放ち、戦闘は最小限で良いのなら…… 百人いれば大丈夫でしょう」


 百人か…… 都市一つを襲うのに心もとない数に思えるが戦うわけではないしな。

 それにこいつらはプロだ。餅は餅屋。テロはテロ屋に任せよう。


「それでいい。じゃあいつ動けるかだが……」

「三日あれば準備が整います。聖女様は明日から動いてもらいますがよろしいですか?」


「あぁ。桜には俺から言っておくよ」


 あいつが納得してその役をやってくれるとは思えないが…… 

 フィーネの命が懸かっている。やってもらうしかない。


「では決行の時までゆっくりとお休みください」

「あぁ。しばらく世話になる」


 俺は用意された部屋に戻る。

 チシャはまだ寝ていたが桜は起きて俺の帰りを待っていた。


「お帰り。話は済んだの?」

「あぁ…… 少し話そうか」


 桜と連れて地上に上がる。すっかり夜になっていた。

 砂漠は夜になるとやけに寒くなるのが不思議だな。

 昼間はあんなに暑かったのに。懐からタバコを取り出し火を付ける。


「吸っていい?」

「吸ってから言わないでよ…… で、話って何?」


「桜には申し訳ないが…… お前にはリアンナ奴隷解放戦線の広告塔として暫く働いてもらいたい」

「広告塔? キャンペーンガールでもするわけ?」


「そんなとこ。聖女が組織に味方してるぞーって宣伝するんだろ。でも危なくなったら遠慮なく魔導弓をぶち込んでやれ」

「あんまり乗り気じゃないけど…… フィーネちゃんを助けるためなんでしょ? 私やるよ……」


 ありがとな。ごめんな悪いパパで。

 かわいい娘にこんな役目を押し付けちまって。

 桜は空を見上げて……


「パパ…… 絶対にフィーネちゃんを助けようね……」

「あぁ……」


 二人星空の下で決意する。


 その翌日。桜はノア、アーニャに連れられ与えられた仕事をこなす。


 俺はやることがないのでチシャと二人でお留守番をしていたのだが……


 コンコン


『ライト様。べリスです。入っていいですか?』

「あぁ。なんだ?」


 部屋に入ってきたべリスは一枚の紙を俺に手渡した。

 そこには……


【魔女の父ライト殿へ。伝えたいことがある故、至急首都ナタールに来られたし。アスファル聖国 法皇 ルチアーニ】


 これってどういうことだ?


「ひとまずはクロン様に会っていただけますか……?」


 ルチアーニ…… 何を考えている? 

 俺はべリスに連れられ責任者のクロンに会いに行くことにした。

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