第63話逃亡

 桜と二人宿に戻る。今日のノルマである情報収集は終えたのだが…… 

 桜は帰り道でずっと無言だった。大丈夫かな? 

 桜は部屋に戻ると黙ったままベッドに寝転がってしまう。


「お帰りなさい。町の様子はどうでしたか?」

「あぁ…… 予想通りっちゃ予想通りだが、あまり俺達にとって好ましくない状況だな。あまり長居は出来ない。明日には出るぞ。そうだ。フィーネ、これを……」


 先ほど服屋で買ってきた服を手渡す。たしかサハーって言ってたかな? 

 地球でも砂漠地帯に住む人が着るような全身を覆うゆったりとした服だ。

 これで強烈な日差しを避けるのだろう。


「ライトさん…… 少し気になる話が。実はお昼に少しだけ外に出たんです。ごはんを食べようとして食堂に入ったんですけど…… 昨日会った聖堂騎士団の連中がバイク…… 鉄の馬に乗った人族の話をしてました」


 俺達のことだな。やはりある程度は存在は知られていたか。


「そいつらはなんて?」 

「途切れ途切れにしか会話を聞き取ることは出来ませんでしたが…… 生きたまま拘束…… 魔女を護送とか言ってました」


「それってさ…… 俺達ってある意味お尋ね者ってことだよな?」

「聞こえた単語から判断すると…… そうかもしれません……」


 やばいな。これ以上目立つ行動は出来ない。

 やはりどこの町にも寄らず、この国を出るか? 

 いや駄目だな。砂漠の移動は体力を消耗する。

 いかにフィーネの魔法で水を確保しようにも野営では体力を完全に回復は出来ないだろう。

 定期的に町を訪れ、休息を取らないと。


「そうか…… じゃあ移動手段も考えないとな。バイクはこの世界では目立ちすぎる。俺達の世界だと砂漠の移動はラクダだよな……? フィーネは何かいい手段は知ってるか? 前に行商人のキャラバンに乗せてもらったんだよな?」

「そうですね…… 砂漠の移動であればキリンが有用だと思います。たしか、キャラバンの馬車を引っ張ってたのもキリンでしたし……」


 キリン? キリンってあの首が長い? あんなのに乗って移動するのか?

 いやここは異世界。地球にいるようなキリンではないだろう。

 きっと同名の全く違う生き物なんだろうな。


「キリンか…… それって俺達でも買えるのかな?」

「多分大丈夫です。キリンも馬同様、移動手段として広く知られていますからね」


「そうか。よし、今日は早めに休もう。明日はキリンを買ってからこの町を出るぞ。でもその前に……」


 地図を広げて近くの町を探す。北に二百キロほど行ったところに…… 

 あった! テレジナっていう町があるな。

 それに地図にはオアシスらしき記号も書かれている。

 道中で休息を取れるかもしれないな。


 次の目的地を確認出来た。それじゃ今日は早めに寝ますかね。


 俺も疲れた。

 ベッドに入るとフィーネがこっそり甘えてきたので軽くキスだけしてから眠りに落ちる……



◇◆◇



 ブブブブ……


 ん…… もう朝か。腕時計のアラームを消してベッドを抜け出す。

 さぁ準備しなくちゃ。


「ほれ。起きな」

「むぅ…… まだ眠いよぅ……」「ふぁー。おはようございます」


 二人ものそのそベッドから抜け出し、昨日買ったサハーなる服に袖を通す。


 おぉ…… なんてエキゾチックな…… 

 俺の人生においてこんな服を着る機会が訪れるとはね。

 それにしてもこの服はいいな。フードも付いてるし。

 これを被ればそうそう正体を見破れまい。


 各々服を着て準備完了。会計を済ませ宿を出る…… 


 あ…… 俺達と入れ違いに甲冑を着た一団が宿に入っていく…… 


 もしや……


「パパ…… あれって?」

「しっ! 振り向くな! そのまま歩くぞ!」


 俺達は速足でその場を離れる。

 昨日のフィーネの話だが、もしかしたらだが俺達はこの国ではお尋ね者扱いされている可能性があるのだ。

 厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだからな。


 宿から離れる道中で不思議な生き物を見つけた。

 家屋の軒先に十頭ほどの馬のような生き物がいる。

 ん? これは…… 馬のような四本足。だが角が生えてて金色のたてがみ、なんとなく竜のような顔。

 これって某有名ビール会社のロゴにある生き物そっくりだ。

 もしかしてこれが……


「なぁフィーネ。これがキリンか?」

「はい! ふふ、私も見るのは久しぶりですけど」


 すごいな…… 久しぶりにこの世界にファンタジーを感じるわ。


「ライトさん、ここはキリンが売っているみたいです。寄っていきますか?」

「あぁ。見てみよう」


 店に入ると店主らしき男が声をかけてくる。


「いらっしゃい! キリンをお探しかな!?」

「あぁ。このキリンってのは…… 砂漠の移動には向いてるんだよな?」


「はは、あんたキリンも知らんのか。さては旅人だな? キリンは強い生き物でな。砂漠でも水を十日は飲まなくても生きていられる。走るのが大好きでな。一日に百キロは走ることが出来るぞ」


 砂漠を一日百キロか…… バイクには劣るがこれは貴重な移動手段だ。

 何よりキリンに乗っていれば道中目立つことなく移動が出来る。


「いくらだ?」

「個体によって値段は変わるが…… うちで一番いいキリンは五百万オレンだ。でもあんたら三人だろ? キリンはそんなに力は強くない。二人乗せるのが限界だ」


 お高いな…… しかしそうも言っていられない。ここは即金で二頭買うか。

 どうせこの世界でしか使えない金だ。出し惜しみしてもしょうがない。


「分かった。じゃあ二頭貰おう」

「はは! あんたらどっかの貴族様かい!? キリンを二頭もなんてさ!」


 俺は一千万オレンを店主に手渡し会計を済ませる。

 外に出ると店主は二頭のキリンの手綱を引いてやってきた。


「キリンは頭が良くてな。簡単な人語は理解する。自分に付けられた名前も分かるはずだ。こっちの角が長いのがムニン。少し体の小さいのがフギンだ。ほらお前たち。新しいご主人様だぞ!」


 二頭のキリンは俺の方に寄ってきてゴツイ頭をくりくり押し付ける。

 うお、すごい力だな。はは、なかなかかわいいじゃないか。


「よし、それじゃフィーネは桜とムニンに乗ってくれ。俺はフギンに乗るよ」

「え? パパはフィーネちゃんと乗るんじゃないの?」


「いや、体重の軽い二人がムニンに乗ったほうが負担が少ないだろ?」


 っと思っていたのだが、なんかフィーネが俺を見上げて瞳をウルウル……


「う…… ぐすん…… 私、ライトさんと乗りたい……」

「おま…… 我がまま言うんじゃない。慣れない砂漠の移動なんだし……」

「いやなの…… ライトさんと乗るの……」


 キラキラとした視線がフィーネから射出される…… 

 お前、どこでそんな技を覚えた? しょうがないな……


「分かった…… フィーネは俺とムニンに乗る。桜は一人だけどいいか?」

「うん! 一人の方が気楽だし! フィーネちゃん! 良かったね!」

「サクラありがとね! それにしてもサクラに教えてもらった通りだね。ライトさんはこの視線に弱いって!」


 はは、桜が教えたのか。

 なんか俺におねだりする時は桜も目をウルウルさせながらお願いしてきたもんな。


 移動手段をバイクからキリンに切り替え、俺達はコドーの町を出る。

 幸い人はまばらで、先程すれ違った聖堂騎士団の連中の姿も見えない。


 砂漠とはいえ一応街道らしきものはある。

 キリンは俺達を乗せてカッポカッポと街道を進む。

 ふぅ、ここまで来れば、もう安心……?



 待ってー……



 ん? 後ろから声がする…… 

 まさか追っ手か!?


「桜! フィーネ! キリンから降りろ! 何か来るぞ!」


 各々キリンから降りて戦闘態勢に入る! 

 フィーネはオドを練り、桜は魔導弓を構える。


 俺はスナイパーライフルを創造。構え……


 スコープを覗く……


 陽炎に揺らぐ一つの姿…… 


 いつでも来い…… 


 返り討ちに……?



 子供!?



「桜! フィーネ! 構えを解け! 子供だ! 撃つなよ!」


 俺の指示で二人は戦闘態勢を解除、こちらに向かってくる子供が来るのを待つ……


 子供は更に接近…… あれ? この子どこかで……


 いや、間違いない。この子は昨日服屋で会った獣人の奴隷少女。


 チシャだ……

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