第45話エキシビジョン 其の一

 俺は今、王都ティシュラの中央にあるという武道大会の会場に向かう馬車の中にいる。

 桜とフィーネは別の馬車で会場に向かうそうだ。

 向かいに座るは虎顔のシーザー将軍。顔は怖いが何だかすごく嬉しそうだ。


「どうしました? ずいぶんご機嫌なご様子ですが」


「ははは! 分かりますかな!? 私は祭りが大好きでしてな! そしてこれから開催される武道大会! 武に生きる私にとってこれ以上の楽しみは他にはありません! しかも前哨戦としてライト殿と剣聖ルカ・ルクレツィオがぶつかるのです! これを興奮せず何といたしましょう!」


 剣聖か…… 称号を持つくらいだ。

 やはりルカはかなり強いのだろうな。


「俺の相手のルカなんですが…… やはり接近戦を主体で戦うんですかね?」

「はは、ルカ皇子はアルブの民ですぞ。言うに及ばずルカ皇子も強いオドを内包しております。魔法の腕もかなりのものと聞いております」


 魔法もか。

 だがあいつの性格から察するに近距離戦を主体として魔法で中距離で牽制する…… 

 FPSなら俺が最も狩りやすい相手だ。


「なるほど…… それにしてもシーザーさんはある意味祭の運営を行う側なのに一参加者の俺に情報を与えていいんですか?」

「ははは! 今のは他言無用でお願いしますぞ! 私はあなたの勝利に禄の一ヶ月分を賭けているのです! あなたに勝ってもらわないと困りますからな!」


 賭けもやってるのか。

 こりゃ勝つ理由が一つ増えたな。


「ははは! 全力は尽くしますが負けても恨まないで下さいよ!」


 和やかな会話を楽しみながら馬車は会場に到着する。


「着いたようですな。ライト殿、こちらへ……」


 シーザーの後に続き控え室へ。

 持ってきたカーボンナノチューブを織り込んだレザーアーマーを着て…… 

 はい、準備終了。


「そういえばライト殿はどんな武器を使うのですか? 噂では見たこともない飛び道具を使うとか……」

「はい。そうですね。今日はこれを使うかな……」


 目を閉じる。


 イメージする。

 

 かつてはまっていたFPSの中でみんなが涎を流すほどに欲した銃を……


 拳銃サイズ、クリティカルヒットすると敵は爆発を起こす性能を持つ。

 さすがに今回はその機能は封印するけどね。


 リロードはどの銃よりも早く、全く隙がない。

 最強といっても過言ではない。


 右手にずしりと重量感を感じる……


 かつての相棒、ハンドキャノンが握られていた。

 一応こいつにはルシファーっていう名前が付いてたけど、なんか中二っぽくてあんまり好きじゃなかったな。


「ラ、ライト殿…… それは……?」

「なんて説明すればいいかな…… まぁオドを高速で相手に撃ち込む道具だと思っていただければ結構です」


 銃なんてこのファンタジーな世界には不釣り合いなんだろうな。

 興味深そうにシーザーがハンドキャノンを見つめている。


「なるほど…… これがライト様の武器ですか。こんな小さい物でオークの大群を退けるとは……」


 実際オーク退治に使ったのはスナイパーライフルでしかも弾はエクスプローダーだけどな。

 そうだ。弾の準備もしておかなくちゃ。

 ルカはフィーネの仇とはいえ、他国の皇子。

 万が一死なれたらこの国に迷惑がかかるだろうしな。


 創造魔法で、とある弾丸を作り出す。これを使って……



 コンコン



 ノックする音が。そろそろ時間か。


 シーザーが立ち上がり、俺を見送ってくれる。


「ライト殿…… 御武運を……」


 さてと! いっちょやってみますか!



◇◆◇



 係に先導され長い廊下を歩く。


 次第と歓声が聞こえてくる。


 経験したことなんかないが、花道を歩くってのはこんな感じなんだろうな。


 歩く度に大きくなる歓声と拍手……


 着いた先は……


 まるでコロッセオだな。古代ローマの円形闘技場…… 

 そんなイメージがピッタリだ。


『聖女の父! シブハラ ライト選手! 入場です!』

「「「わーーー!!」」」


 おぉ!? なんか審判らしき人が紹介してくれたぞ。

 びっくりしたよ。はは、こういうところは世界が変わっても同じなんだな。

 審判の紹介が続く。


『東門から現れし聖女の父! 訪れた町の危機を救い、見返りを求めることなく去っていく! 見たこともない魔法を使い魔物をほふるその姿はまるでおとぎ話の英雄だ!』


 はは、何言ってんだよ。ゲーム好きな普通のおっさんだから。

 俺の思いとは裏腹に会場は更に盛り上がる。


『そして西門から……! ルカ・ルクレツィオ皇子の入場だ!』


 来たか…… ん? 広間では礼服だったが、今はごつい甲冑を着込んでるな。

 腰にはきらびやかな剣を差している。


『百戦百勝! 電光石火! 万夫不当! 様々な異名を持つルカ皇子! 剣の腕は言うに及ばず! ヴィルジホルツ随一の実力者! そしてその端麗な容姿で泣かせた女は星の数!』


 泣かせた女ねぇ…… 違う意味でフィーネが泣くことになったからな。

 段々ムカついてきたぞ。


『突如決まったこの試合は祭の成功を願っての親善試合となります! 二人の粋な計らいに大いに感謝しましょう!』


 拍手と歓声が沸き上がる! 

 さぁ盛り上がって来ましたよ! 

 ルカは一人だけ面白くないって顔をしてるけどな。


 審判は俺達を闘技場中央に呼び寄せる。


「この試合のルールを説明します。武器、魔法の使用は自由。勝敗はどちらが意識を失うか負けを認めた時。万が一対戦者を殺してしまった時は反則負けとなりますのでご注意下さい」


 ルカが薄笑いを浮かべながら審判に話しかける。


「殺さなければいいのだろう? 腕を切り落とした時は? 鼻を削ぎ落とした時は? その程度では反則負けにならないだろうな?」

「は、はい…… ですが……」


「ならいい。お前、確かライトとか言ったな? 聞いての通りだ。俺はお前を殺さない。だが、生きていることを後悔するほど斬り刻んでやるから楽しみにしておけよ」


 ははは。剣の腕以上に口は達者なようだ。

 どこの世界にもこういう奴はいるんだよな。

 PVPしてた時を思い出すわ。

 何気無くボイチャをオンにしてたら口ばっかしの悪口雑言を口走る奴がいたんだよな。

 もちろんボコボコにしてやったが。


「ははは」

「貴様…… 何がおかしい……?」


 思わず笑ってしまった。

 挑発の仕方が余りにもガキっぽくてさ。


「すまんすまん。だけど戦う前は口を開かないほうがいいぞ。お前対人戦慣れてないだろ? お前がほざいた下らない挑発から、接近戦をメインにするってバレてるじゃん」

「な、なんだとっ!?」


「いや、お前さ、俺の事を斬り刻むって言ったよな? なら俺は剣の間合いが届かない距離で戦えばいいだけだし。ありがとな。わざわざ手の内を晒してくれて」


 戦いにおいて情報というのは重要な要素を含んでいる。

 PVPにおいて相手の使用武器を知る。

 そうすることで自分の武器を変更、優位に立てる場所を確保するなどの対応策を練ることが出来る。


 さらにルカは己の失態に気付いた。

 こいつが最初に狙ってくる攻撃は……


「で、では! 試合を開始させていただきます! 両者前へ! 悔い無きよう全力を尽くして!」


 さて、ようやく試合開始か。


 ルカと俺は少し距離を取る……


 それを見た審判が大きく手を振りかざして……


「始め!!」



 ダッ



 審判の声を聞いたルカは一気に後ろに下がる! 


 想定通り! 


 ルカの下がる速度以上の速さで距離を詰める!


 ハンドキャノンを即座にしまい、ショットガンを創造する!


「なっ!?」


 ルカの焦った声。予想外の俺の動きに対応出来てない。


 おでこがくっつきそうなほど接近する。


「き、きさ……」



 ドドドドドドドドドドンッ



 ショットガンの十連射を胴に喰らいルカは大きく吹き飛んでいった。


 はい、一キル。

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