第41話入城

 俺達は今馬車の中にいる。王都に入るための列に並んでいたら、顔のおっかない虎獣人に見つけられて、なぜか馬車にエスコートされてしまったのだ。

 どうやらこの虎獣人は王様の命令で俺達を探していたらしいのだが…… 

 王様が俺達を探す理由って一体なんだ?


「あの……」

「なんですか?」


 虎獣人のシーザーに声を掛ける。

 言葉は丁寧だが、見た目はかなり怖い。

 将軍をしてるって言ってたから、かなり強いんだろうな。


「申し訳ございませんが、この状況を理解出来なくって…… 説明してもらえませんか?」

「失礼。先程も申しました通り、王の命により私はあなた方を探しておりました。再びこの地に降り立った聖女様を見つけ出せと……」


 聖女? そう言えばシーザーは俺達のことを聖女御一行って言ってたよな。

 聖女か。思い当たる節は一つだけだ。

 桜のことだな。視線を桜に送ると……


「え? 私? いや聖女って言われても…… 私何もやってない……よね?」

「いえ、聖女様はアバルサの町を救ってくれたと聞いております。噂というのは広まるのが早い。人の言葉はどのような名馬より早いのです。あなたの活躍はすでにこの国の全てに広がっているのですよ」


 やはりか。アバルサでは桜が大活躍だったもんな。

 回復魔法を使い、多くの怪我人を死の淵から救いあげた桜に町の人は聖女の再来だとか言ってたわ。


「この国には聖女信仰がありましてな。千年前、この国が産まれる前の話ですが、不思議な力を持った人族の娘が魔物に襲われた村を救ったそうです。リアンナという娘に従う二人の兵は魔物を倒し、リアンナ自身は人々の傷を癒してまわったと…… 

 その後リアンナはこの地を巡り、人々を救い続け去っていった。こうしてこの国には聖女信仰が根付きました。そして再び聖女が現れる…… サクラ殿。あなたのことです」

「わ、私が聖女!? そんなに噂が広がってるなんて……」


 話は分かった。

 だが、王様が俺達を探してた理由ってのはなんだろうか?


「それで、俺達はどこに向かってるんですか?」

「城です。聖女様達には国賓として建国祭に参加して欲しいのです」


 国賓!? 俺達が!? 


「パパ、国賓ってなに?」

「国賓ってのはな、簡単に言えばこの国が俺達を大事なお客様として扱うってことかな。でも俺達が建国祭に参加って…… 何かしなくちゃいけないとかは無いですよね?」


「そこはなんとも…… 私は王から聖女様方をお連れするようにしか命を受けておりませんので」


 これは意外な展開になったな。

 不安を抱えたまま馬車は城に向かって走り続けた。



◇◆◇



 馬車に揺られること一時間…… 

 突然馬車が停まるのを感じる。


「着いたようです」


 シーザーは先にキャビンから出ていった。

 それに続いて俺達も…… って桜とフィーネがグースカ寝てる。

 よく眠れるな。


「ほら、着いたぞ。二人共起きて!」

「ふぁあ…… あれ? 私寝てたの?」


「あぁ。全く緊張感の無いやつだな」


 桜は伸びをしてからキャビンを出ていく。

 フィーネは…… 起きないな。

 肩に手を置いて……


「フィーネ? ほら起きな」

「んふふ……」


 寝ぼけてんのか? フィーネが抱きついてくる。



 ガブッ ガジガジッ



 おう…… なんかまた耳を噛まれた。

 これで二回目だな。


「こら! しゃんとして! そして耳を噛むな! いてて!」

「ん……? ライトさん? やだ私ったら……」


 そんな頬を染められても…… 

 いやそんなことをしてる場合ではない。

 俺達は今、城内にいるんだ。これから王様にでも会うんだろうか? 

 うぅ…… なんか緊張してきた。


 フィーネの手を引いて外に出る。


 うはぁ…… 

 目に広がるは手入れされた広い花壇。

 噴水があり、メイド服を来た獣人が手入れをしている。

 そして石造りの大きな城…… いかにもファンタジーという様相だ。

 きっと昔のヨーロッパとかにはこんな城があったんだろうな。


 見事な風景に目を奪われていると、シーザーが話しかけてくる。


「ははは、その顔は城を気に入っていただいたようですな。結構結構」

「はい。こんな見事な建築は初めて見ました。すごいですね……」


「それでは城を案内……と言いたい所ですが、聖女様方は王に会って頂かなければいけません。着いて早々ですが、こちらに……」


 シーザーが俺達を城の中に。大きな門を抜ける。

 一階は広間になっている。千人は収容できるぐらいの広さだ。

 広間の中央には立派な椅子が。あれが玉座ってやつか? 

 この広間で式典とかやるのだろうか?


 玉座の後ろにある階段を上がり二階のとある一室に。

 ん? ここに王様が? 

 てっきりもっと上の階層にいるものかと思ってた。


「ん? どうなされた?」

「いえ、なんか王様って城のもっと上にいるものだと思っていましたので……」


「ははは、まさか天辺の監視塔とかですかな? そんなところに王はいません」


 変なイメージ持ってたわ。

 日本の時代劇とかでも天守閣の上の方に将軍様の寝室があったような。

 そう言えば西洋の城のことなんて何も知らないしな。


 王様がいるであろう部屋の前には屈強な護衛が二人、扉を守っている。


「通せ」

「はっ!」


 シーザーの号令で兵は扉を開ける。


 彼に続き中に入ると……


 テリアだ…… 

 豪華な服を来たテリアが俺達を待っていた。


「ふぉっふぉっふぉ。お待ちしておりましたぞ」


 そう言ってテリアは桜の手を持ってその手にキスを…… 

 


 ペロペロペロペロッ



 いや、ペロペロ舐めてるのだが……


「うぇ~……」


 桜はすっごく嫌そうな顔をしている。

 桜、その人をただの犬だと思うんだ。そうすればきっと我慢できるから…… 

 一しきり桜の手をペロペロした王様はシーザーに指示を出す。


「そなたの働き見事であった。よく聖女様をお連れしたな。下がって良いぞ」

「はっ! ありがたきお言葉! では失礼します!」


 シーザーは一礼して部屋を出ていく。

 この部屋にいるのは俺達とテリアだけだ。


「聖女様方。こちらへ……」


 テリアに促され、豪華なソファーに腰をかける。

 手をパンパン叩くテリア。

 するとお付きのメイドさんだろうか、俺達の前に香り高い紅茶が置かれる。


「さて、貴殿方をお招きした理由はシーザーから聞いていると思いますが…… この国では明日から建国祭が開かれましてな。皆様にも参加して頂きたいのです。再びこの地に降り立った聖女として」


 一応代表として俺が話すか……


「はい、祭りに参加することは問題無いのですが…… 俺達はその祭りの中で何かしなくちゃいけないんですか?」

「なに、難しいことは何もありません。ですが、建国五百年の節目として各国から重鎮を招いているのですよ。その中で一言挨拶していただければ結構。それが終われば後は自由にして頂いて構いません」


 なるほどね。何となく王様の考えが読めたわ。

 少し面倒くさいけど、長い列に並ばず入都出来たし、何より国賓として扱われるならこれぐらいやってあげてもいいか。


「分かりました。慎んでお受け致します」

「そうですか! ありがたい! では今日から城でお過ごし下さい! 一番いい部屋を用意しましょう」


 王様は再び手を叩く。

 現れたメイドさんにエスコートされ、客間っぽい部屋に通される。

 おぉ…… 広いリビング、豪華なテーブル。

 その上には見たこともない果物が篭に入ってる。

 食べていいのかな? 

 桜とフィーネはもう食べちゃってるけど……


「こら! 勝手に食べるんじゃない! 全くはしたない……」

「ふぁっておいひそうなんだもん」


 モグモグ果物を頬張る桜。

 ほらメイドさんがクスクス笑ってるぞ。


「うちの子がすいません。はしたないところをお見せしちゃって」

「いえ、いいんですよ。聖女様は大事なお客様ですから。お代わりを後でお持ちしますね」


 メイドさんは一礼して下がっていく。

 さてと…… 俺もリンゴみたいな果物をいただく。


「美味いな。桜、フィーネ。食べながらでいい。聞いてくれ」

「なに?」


「王様にお願いされた件だが…… あの人とぼけた顔してるけど中々のタヌキだな」

「タヌキ? 犬じゃん」


「そういうことじゃなくて…… いいか? 俺達は国賓として祭りに参加することになったが、利用されてるってことを忘れるな」


 フィーネがキョトンとした顔をしてる。桜もだ。


「利用ですか? どうゆうことでしょうか?」

「簡単だよ。祭りには各国から重鎮が来て俺達は挨拶をすることになってるだろ? 伝説になってるような聖女が祭に参加するんだ。この国が力を持っているってことをアピールする絶好の機会って訳だよ」


 桜とフィーネがなるほどねーって顔をしてる。

 桜はともかくフィーネなら気づいてると思ったんだけどな。


「そうなんだ…… じゃあ王様のお願いはお断りした方がいいのかな?」

「いや、それは聞いてあげるつもりだ。見返りは求めない。何か不都合なことがあった時にこの話を出せば大抵のことは聞いてくれるだろうしな」


「なるほど…… ふふ、ライトさんって意外と悪い人なんですね」

「生きるための知恵と言ってくれ」


 聖女一行として挨拶なんてのは問題無い。

 だけど…… 一つだけ気になっていることがある。


 もしかしたらだが……

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