第57話 記号

五十七

 僕は休日になると、よく本屋に出かけます。その本屋は駅のビルの五階にあります。確か三階くらいだったはずですが、そこでは衣料品が売られていました。僕はファッションというものに全く興味がありません。そのため、いつもであれば、そのエリアを素通りして、本屋に行っていたはずです。


 しかし、中学生だった僕はそのエリアにある女性ものに目を奪われました。ベージュ、ラベンダー、ホワイトといったブラジャー。紫や黄色のシュシュ。


 僕はつい盗み見るように、そのエリアを通り過ぎて、男性もののエリアに行きました。僕はそこにあった物体を見ただけで、あらゆる女性の姿が脳に浮かんできました。まるで、人間界を離れて、天国にでもいるような心持ちでした。


 その売り場で、若い女性が品定めをしていました。僕はその人をはっきり見たわけではありません。しかし、その女性がラベンダーのブラジャーを付けている様を想像したとき、僕は愉快な気持ちになったのです。


 僕はその興奮が冷めやらぬ前に、売り場を離れて、書店に行きました。考えてはいけないことを考えてしまった。僕はそういう不快感を覚えました。


 しかし、どうも脳の中に浮かんだ像が視界にチラついて仕方がないのです。そのとき、僕は淫靡な趣味の一つを知ったのです。


 その帰り、また僕は三階の売り場を急ぎ足で通り抜けました。それでも、あらゆる物体が目の中に映ります。そして、先程と同じような感動を得たのです。


 僕は二階に降りて行きました。いつもだったら、二階も三階と同じような一つの通過点にすぎませんでした。しかし、二階にはいろんな高校の制服が並んでいました。とりわけ、マネキンがセーラー服を着ている光景を見たとき、僕は言いようもない衝撃を受けました。


 そのセーラー服は、紺色で白いスカーフが襟から出ていました。いたって、シンプルなものでした。


 クラスの女子がそのセーラー服を着ている姿を想像しました。不思議なもので、セーラー服を着ている女というのは、一つの人格というよりは記号化されたモノという印象を与えるのです。つまり、他者という気がしなくなるのです。


 僕にとって、他者とは制御不能かつ予測不能な存在ですが、記号化されたモノとは制御可能で予測可能なものなのです。だからこそ、モノを愛するのだと思うのです。

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