第55話 洗脳

五十五

 君には、人を支配したいというおぞましい欲望がありますか?僕は中学生になったあたりから、そういう欲望を持っていました。他者を思い通りにコントロールすることができれば、どんなに快い気持ちになるのだろうかとハラハラしたことがあります。


 おそらく、小学校の時に受けた心の傷が原因となっているのでしょう。僕は他者に対して、復讐をしたいのです。


 しかし、この欲望が反社会的な性質を有していることを僕ははっきりと自覚していました。そのため、こんな欲望を持っている自分を今でも責めています。僕は君だからこそ、こんな秘密を打ち明けることができるのです。具体的な話をしましょう。


 中学生という生き物は、制服というものを着ています。クラス全員が狭い部屋に閉じ込められて、同じような服装をして、整然としています。僕はこの様子が好きでした。というのも、人間が個性というものを主張しないで、まとまっているからです。


 僕は他者が個性を持った一人の人間だと感じたとき、どのように接してよいのかが分からなくなるのです。僕は他者に興味はありませんが、他者にどう思われるのかは人一倍関心があるのです。


 他者の視線、声のトーン、表情。あらゆる他者が送るシグナルには何かしらの意味があるのではないか。もしかしたら、そのシグナルは良いことを言っているようで、実は裏の意味があるのではないか。自分はバカにされているのではないか。


 そう思うと、心を許して、他者を相手にすることができません。他者が発するあらゆる情報が僕を苦しめるのです。そして、いつものように脳の中がぐるぐると回るのです。


 だからこそ、他者を完全に支配したいと思うのです。より正確に言えば、洗脳したいと思うのです。クラスメイト全員の脳にチップでも埋め込んで、彼らの心の働きを思うがままに制御できたらいいのに、催眠術をかけることができたらいいのにと不思議なアイディアが浮かんできました。


 こうして、クラスメイトを洗脳すれば、小学校の時のような嫌な思いをせずに済み、自分はクラスの支配者として、安心して生活することができるという確信を持ちました。僕は他者に興味はないが、他者に慕われたいという屈折した感情を持っていました。

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