第46話 性徴

四十六

 数週間後のことだった。


 「学校で何かあったの?」

アカネの母親は、自分の娘の様子がおかしいと感じていた。

「なんでもないよ」


 アカネは強がって、何も打ち明ける気にはならなかった。自分が「格付けリスト」のせいで、悩んでいることを伝えられなかった。


「本当に?」

「ほんとだよ」

「最近、食欲がないでしょ。何かあるのかと思って」

「なんもないよ」

アカネはそう言うしかなかった。


 アカネはシャワーを浴びた。すると、鏡に自分の全身が映った。自分の体が全体的に丸みを帯びているように見えた。特に胸が大きくなっているような気がした。体だけが勝手に成長しているかのようだった。まるで、心を置き去りにするように。


 アカネは自分の体が自分のものではないようなチグハグな感じを覚えた。自分が抱いていた体のイメージと鏡に映る体が食い違っているのだ。自分が理想とする体がそこには映っていなかった。アカネは鏡から目を背けた。


 けれども、洗面台にも鏡があった。その鏡は自分のニキビ面を映していた。その鏡にも目を背けたくなった。お前はブスだと言われているような気がしてならなかった。


 そして、アカネは日課である体重測定をした。針が左に振れるたびに、アカネは嬉しくなった。45キロ。確実に瘦せている。自分が抱く体のイメージと現実の自分の体は不一致ではるが、客観的な数値としては成果が出ているのである。アカネは嬉しくなった。


 もっと、成果を出したい。アカネはいつも以上に筋トレに力を入れた。ちょうど、シットアップをしている時だった。急に視界がぼやけた。少しだけ、意識が遠のいてゆくようだった。


 それに加えて、お腹が痛くなった。何か、食べたい。胃腸がそう言っているようだった。けれども、アカネは食べるわけにはいかなかった。食べてしまっては元に戻ってしまうような恐怖感がアカネにはあった。食べたい。食べたい。アカネはその声に耳を貸さないように努めた。


 けれども、アカネはその声に勝てなかった。リビングに行って、そこにあった食パンを何もつけずに貪るように食べた。美味しかった。


 「どうしたの?」

アカネの食べっぷりが母親には異様に見えた。

「お腹が空いたの」

アカネは食パンを一気に3枚も食べた。

「明日はちゃんと朝ごはん、食べてね」

「うん」


 食べたおかげで、集中力が戻り、アカネは宿題を終えることができた。けれども、食べてしまったという罪悪感がアカネの身に降りかかった。なんで、食べたんだろう。食べた分、太ってしまう。早く、出さなきゃ。


 アカネは自己嫌悪に陥った。

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