第28話 飲酒

二十八

 「お店で飲むのが嫌でね」

「別にいいですよ」

本田と藤原は酒とつまみを買いにドラッグストアに向かっていた。


「お店はバカが多くて困るんだ」

「そうですか?」

「騒がしいだろ。大学生街の飲み屋は」

「うるさいのが苦手なんですか?」

「そうだね。人より耳が敏感なんだ」


 藤原は買い物カゴを持った。

「おごるよ」

「いいんですか?」

「本田くんしか酒を飲む相手がいないからねえ」


 藤原は安い甘ったるいチューハイを買い物カゴに入れた。本田はビールを入れた。


「ビール、飲めるのか。そりゃ、そうか」

「藤原さんは飲めないんですか?」

「苦いだろ。だから、飲めないよ」


 二人は藤原のアパートに行った。

「お邪魔します」

「どうぞ」


 藤原の部屋は小綺麗だった。無駄な生活用品がなく、右側に大きな本棚があった。


「本しかないんですね」

「まあねえ」


 本田は藤原の本棚を眺めた。

「哲学ばっかですね」

「そりゃ、哲学を専攻しているもんで」

「何冊あるんですか?」

「ざっと、500以上かなあ。数えたことがないなあ」


 藤原は缶を開けた。

「飲むぞ」

「はーい」

二人は乾杯した。藤原は勢いよく、チューハイを飲んだ。

「二か月ぶりだ」

「誰かと飲んだんですか?」

「きれいなお姉さんとねえ。ヒヒヒ」

藤原はすでに酔っているようだった。


「本田くんはカノジョいるの?」

「いますよ」

「いいねえ。楽しそうで」

藤原の声には皮肉がこもっていた。

「楽しいことばっかじゃ」


 藤原はもう一つの缶を開けて、飲み始めた。

「そりゃ、そうだろうけど。アハハハ」

「お酒に弱いんですか?」

「オレは強いよ」

「いやいや、噓ですよね。もうやられていますよ」

「んなわけないよ。この通り、ピンピンしているよ」


 藤原は突然立ち上がった。

「普通に立っているだよ」

藤原はフラフラしている。

「座ってください」

「はーい」


 藤原は座って、また缶を開けた。


 「本田くんはさあ、やったことあるの?」

「何をですか?」

「やるっていったら、あれに決まってるだろ」

本田は何を指しているのかが分からなかった。

「言わなきゃ、ダメですか?」

「ダメか、聞いちゃダメか。ごめんね。オレはしたことないけど。死ぬまでにやってみたいね」

「そういう話はやめましょうよ」


「酒を飲むといつもこうなっちゃうんだ。ごめんね。知性が売りで生きているんだけどねえ」

「知性のかけらもないですよ」

「ダメだなあ。もう酒を飲むのはやめようかなあ」

そう言いながらも、藤原は缶を開けた。

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