第15話 自責

十五

 ついにこの日が来た。忘れることができない3月4日である。本田は休暇を取った。本田は駅でバスに乗り、N市に向かった。本田の住んでいるところからN市までバスを使って約3時間かかる。


 本田はスマホで音楽を聴きながら、目をつぶり、N市に着くのを待った。時間が過ぎるのが遅かった。いつまでたっても、N市に着かないように思われた。付け加えれば、永遠に着かなくてもいいような気がした。


 やっと、N市に着いた。バスから降りた本田は電車に乗り、座席に座った。本田の胸は締め付けられた。「はあ」と息を吐いて、本田は胸を押さえた。ここに来るたびに、本田はこのような苦しみに苛まれた。また一つまた一つ駅を越えた。もう少しで目的の駅に近づいてくる。


 本田は苦しみをこらえて、電車を降りた。駅を出て、階段を登った。階段を登り、左に曲がった。一台の車が本田を追い越した。本田の目的の場所はその車が向かう先にあった。ちょっとした歩道橋のようなトンネルをくぐると橋があった。


 本田は毎年、この日になると、この橋を訪れた。


 橋の歩道には珍しく花が手向けてあった。本田はその花の隣に花を手向け、合掌した。今は亡き、故人の姿を思い浮かべた。もし生きていれば、彼は36歳になっていたはずだった。


 けれども、彼はこの橋に身を投げた。遺体は海に流され、見るも無残な姿だったという。


 彼はこの橋で何を思ったのだろうか。何が彼を自殺にまで追い込んだのか。本田はそれを知りたかった。それと同時に、後悔の念がこみ上げてきた。どうして、自分は彼を救うことができなかったのか。自殺する前の彼は確かにおかしかった。病んでいた。彼が出すサインに気づいてあげれば、彼の自殺を止めることができたかもしれない。


 けれども、自分は何もすることができなかった。十五年経った今でも、本田は過去の自分の愚かさを責めていた。「あのとき、ああすれば、こうすれば」とあらゆることが頭に浮かぶのだった。


 「どうして、死んだんですか」


 本田は心の中で彼に問いただした。どんなことがあろうとも、ただ生きてくれていれば、それでよかったはずなのに。本田の目には涙がたまっていた。本田は涙をこらえて、ずっと橋の下の川を見ていた。


 本田はやるせない気分になりながら、駅へと戻っていった。

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